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第十二話 厚謝 /4

「そうだ匠、四月まであと三カ月しかないぞ」 「面接受かったら必ず働かなきゃいけないワケじゃねーんだから、とりあえず練習だと思って説明会なり面接なり受けてこい」  六歳年上の二人に畳み込まれ、匠は渋々(うなず)いた。 「わかった。明日から学校だから、相談とかしてくる」  賢一は表情を変えなかったが、基は匠に穏やかな笑みを見せる。その表情のまま、賢一に向き直った。 「野木崎君に匠のこと頼んでから、匠、だいぶ表情が柔らかくなった気がするんだ。ありがとう」  深々と頭を下げる。この兄はまだ自分のことを非常に気にかけている。以前は重荷だったが、今は、ただ嬉しい。 「匠、顔色変えないから変えるの楽しーんだよ。笑かすのは難易度高いよなー、攻略し甲斐あるな」  気楽な賢一に、基は再度、礼をした。 「ありがとう、よろしく頼みます」  匠はかすかに、賢一が故意に基からの評価を上げているのではないかと考える。  匠が基のことをずっと気にかけているから、匠が気に病まないようにと対処しているのではないだろうか。  賢一がそこまでするだろうか。  故意だとしても、何も考えていなかったとしても、起こった事実は変わらない。  匠の表情が(やわ)らいで、基が賢一に、心からの感謝をしたのだ。

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