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第十二話 厚謝 /3
入院してから煙草を吸っていないであろう基が、今度は賢一をたしなめる。
「おとといって、入院してから吸ってたのか? なんのために入院してるんだよ」
「働いてた時よりすこぶる体調が良かったからなー。外泊中も調子乗ってたら、なんかの数値が上がって退院延期になって」
確かに普段と様子は変わらなかったが、次回の外泊か退院の際は賢一に大人しくさせようと匠は決意する。
「早く退院して好き勝手エロいことしたいから、気合い入れて治すことにした」
余計な一言がなければ立派な決意なのに、なぜ兄の前でそれを付け足すのだろうか。ただ入院中の兄は、意外にも賢一に同調していた。
匠は、自分と寝るために煙草をやめたのだろうかとわずかに想像して、少し胸が痛んだ。そこまでしてと浮き立つ気持ちと、強い信念を押さえつけてまでと憐れむ気持ちが混在する。
そこで、ほぼ基に向かって話をしていた賢一が、急に匠に顔を向けた。
「つーワケで、俺、就職活動始めるから。匠も一緒にするんだぞ」
自分が話題の中心になって、匠はやや戸惑った。賢一と会社を見学に行ってから気にはしていたが、実行に移せずにいたのだ。基もその話に乗り始める。
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