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第十三話 容赦 /3

 匠は教室の端末で、時期外れで数の少ない求人票のページをめくる。その横を、無言で藤花がすり抜けていく。  賢一の言うように、小柄なところが良い女だった。賢一は藤花を匠の女だと思ったというのに、体の関係まで口走って匠が不快になるとは考えなかったのだろうか。多分、考えていない。思ったことを思ったまま口にしただけ。藤花以上に無神経だ。  匠はそこで、違和感を覚えた。  藤花の無神経は許せなかったのに、賢一の無神経はなぜ流せたのか。  あの時藤花に何の配慮もなく不誠実を語られて、自分が意思のないもののように扱われたことが我慢ならなかった。  賢一も藤花と同じ、それ以上のことをしている。  賢一が常識外れであることを知っていたからか。  いや、藤花がまともな人間であろうとなかろうと、不快なものは不快ではないのか。  賢一に情がないから不快にならないのか。  いや、藤花にも情はない。  同等の不誠実をなされても、  賢一の言動なら、全てを許容できる自分がいる。  思考回路がおかしい。  ドメスティック・バイオレンスを受けた者のように、時折優しくされるから、正常な判断ができなくなっているのではないか。  違う。自分は賢一に、非人道的なことなどされていない。  それでは、この思考は一体なんなのだろう。  考えても、わからなかった。  賢一に対して寛容(かんよう)になる意味が、見出(みいだ)せそうで、見出せなかった。

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