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最終話 壮途 /3
やはり自分は賢一に何もしていない。誘惑に相当するような、賢一の情が欲しくて行動を起こすようなことはしていない。
だか、賢一は諦めたような口調で告げた。
「その顔でそんなことされて、惚 れるなって言われても、ちょっと無理だ」
均衡が崩れた。賢一に情かあって、匠には情がない。
「匠は俺に本気になるとか、ありえないんだろ。なんでこんな性格破綻者、手懐 けてんだよ」
もう既に、危惧した事態に陥っている。賢一に負荷を与えている。
だが匠はそれよりも、賢一が自らを蔑 むことを不憫に感じてしまった。性格が破綻していることは否定しないが、自分はそれほど不快に思ってはいないと理解して欲しくなる。
「賢一は最低だけど、悪くないところも結構あるよ」
語彙力が不足していて適切な表現ができなかった気がするが、思ったままにそう言った。
「どこがだよ」
「仕事を意外とちゃんとやってるし、俺の就職の助言をしてくれてる」
「それ性格関係ないだろ。仕事もおまえのことも、適当にやってるだけだし。仕事なんて失敗してるからな」
賢一のその言葉を聞いて、匠は賢一を見損なわない理由が見えた気がした。
「仕事とか助言とか、兄貴が頭下げるようなこととか、好き勝手やっててここまでできてるなんて、逆に尊敬するんだけど」
善行も悪行も、思うままに強行している。善行には徳があり、他に惑わされずに一貫しているところに魅力がある。
そして、魅力に感じていたことをもう一つ思い出す。
賢一に兄の話をした時に、決まって感じたその思考回路。
「あと、人の気持ち考えないのは最低だけど、そのぶん顔に出たこととか、言動はちゃんと見てるのも悪くないよ。同情しないで会話してくれるの、それはそれで良かった」
自分の考えが、きちんと伝わっただろうか。賢一が自分のことを卑下することがなくなればいいのにと、匠は願う。そして、賢一の反応を待った。
賢一はソファから起き上がると、先程までの気怠い様子から一転、不穏な笑みで呟いた。
「それが匠の答えなんだな?」
何か回答をしただろうか。何の回答だろうか。わからずに何も言えないでいると、賢一はソファに仰 け反って大袈裟に匠を指差した。
「俺は今、おまえが俺に惚れてるからいつもそういうコト言うんだと判断した」
「違う、惚れてない」
「なに怒ってんだよ」
表情の変化を読み取って、賢一が尋ねる。匠は自分が怒っていると自覚すると、その怒りを吐露していた。
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