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おばけやしき編 3

「月草。月草…………露草」 「なに? パパ」 「そろそろ入場ですが」  ふぇっ!?  も、もうあの中に入るの? 順番が回ってきちゃったの?  鬼がいるあの中に入るの!?  ぶるぶると震えながらママを見た。ママはというと……。 「うわぁ~。初めてだからすっごいドキドキする! な? 露草」  眼鏡越しでもわかるよ。とっても「きらきら」しているの。  怖いって言えないよ……。 「パパ……」 「瞑ってなさい」  パパはお顔を変えないで、静かにそう言った。  そして僕たち六人一行は、「きらきら」ママを先頭に、お化け屋敷へと入場したんだ。  中は「やみ」のように真っ暗だった。  お化けの人からママとパパとかりんちゃんの三人へと手わたされたペンライトが唯一の明りで、辺りをぼんやりと照らしてくれる。それでも、暗いことに変わりはないから、ずんずんと先へは進めない。  ちらりと、視線だけを動かして、つばきくんとあやめくんの方を見ると、二人はぎゅっと、それぞれのママたちにしがみついて、真っ暗やみの先を見つめていた。その先からは、ひゅうっと寒い風が吹いてくる。  真下を見れば、パパたちの足元を覆うようにモクモクと白い煙がたっていた。  こ、怖いよぉ。  さらにぎゅっとパパにしがみつくと、ドキドキしちゃう低い声がぼくの耳元で小さく囁いた。 「露草。それほどまでに怖いのなら、なぜ嘘をついたのですか。最初から目を瞑っていてはここへ来た意味がないでしょう?」 「だって……」  こんなことになるとは思ってなかったんだもん。  それに。 「ママ、すごく楽しそうにしてたから……」 「……」  だってママ。すごく嬉しそうだったんだもん。  「きらきら」の笑顔だったんだもん。  壊したくなかったんだもん。寂しい顔なんて見たくないんだもん。 「……仕方ありませんね」  心の中で思った言葉が、パパに伝わったのかな。  ハァ……と、小さくため息を吐いたパパは、真っ暗の中でもわかるくらい、とてもかっこよくてドキドキする。  そうして、パパは僕を抱え直すと、僕の頭の後ろに優しく手を回して、自分の胸に僕のお顔を埋めてくれる。僕のお顔を隠してくれたんだ。 「目を……いえ、耳も塞いでいなさい。人は音だけでも恐怖するものらしいですから」 「うんっ」  僕は言われたとおりに、目をぎゅっと瞑って耳を両手で塞いだ。  パパがしっかりと抱っこしててくれてるから、大丈夫。  ママの楽しそうなお顔は見れなくて残念だけど。でも、これで怖くないもん。だいじょう…… 「キャー!! ママ~!!」 「あははははっ! ブリッジした鬼がこっちくる~!」  へ!? 「……パ、……パパ?」 「目を瞑っていなさい……なかなか本格的です」  ほ、ほんかくてき? それって怖いの? 怖いの!?  鬼が……僕たちを食べちゃうの!? 「や~! ママ~! こわい~!」 「うえぇぇぇん!」  つばきくんと、あやめくんの泣き声が耳を塞いでいても聞こえてくる。  鬼がこっちに来てるんだ!  怖い、怖い、怖いよ~!! 「あら、やだ。テレビで見るよりも気持ち悪いわね。ゾンビみたいだわ。これでどうして年齢制限を設けないのかが不思議ねぇ」 「白ママ~! 怖いよ~! ふぇええん!」 「今度は血まみれの鬼が千鳥足でこっちへ向かって来る~! あはははは!」 「うえええん! こわいよ~!」 「だめ……腹が捩れる~っ……あははは!」 「ふええええん!」 「ママ~!」 「あはははは!!」  ………………。  なんだか、悲鳴に交じって笑い声が聞こえてくるのは、僕の気のせいなのかな?  ぶるぶると震えながら、僕はそっと耳から手を離すと、やっぱり楽しそうな笑い声が悲鳴に交じって響き渡っていた。  犯人はママだった。  ど、どうして笑っているんだろう? って、不思議に思っていると、パパとかりんちゃんの話し声が聞こえてくる。 「あの子ってば、どうしてあんなに爆笑できるのかしら」 「アレの思考回路、脳内環境等は常人には理解しがたいものです」 「つまり、考えるだけ無駄ってわけね」  よくわかんないけど、ママたちは鬼が怖くないみたい。  でも、つばきくんとあやめくんはもう泣きじゃくってて、怖い怖いって言ってるんだ。 「ふえっ、ふえ~ん!」 「こわいよ~。お家に帰りたいよ~!」 「あらあら。しょうがないわね。ちょっと、白?」 「あははは! ん? なに? 華鈴姉さん」 「いえ……なんでもないわ」 「白、椿木をこちらに寄越しなさい。菖蒲と共に非常口から出てもらいます……露草はどうしますか?」  え?

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