11 / 46

おばけやしき編 6

 僕たちが「ぺっとしょっぷ」から出ると、突然ママのおなかの虫さんがぐ~って鳴った。  ママはぺったんこのおなかを手の平で撫でると、パパのお顔を見て照れたように笑った。  パパは左手につけている腕時計を見ると、僕に向かっておなかは空いてますか? って、尋ねてきた。僕は首を横に振ろうとしたら、ママに負けないくらいの大きな虫さんが、僕のおなかからもぐ~って鳴ったんだ。僕は恥ずかしくなって俯くと、ママが喜んでパパにごはんにしようって提案したんだ。  それでね、僕たちはレストランへ向かったの。お化け屋敷が入っている「ひゃっかてん」の、一番上にあるレストランでは、たくさんの人たちがそれぞれのテーブルに着いてごはんを食べていた。  僕たちは店員さんに窓際のテーブルまで案内されて、僕とママがお隣同士、そしてパパとは向き合う形で椅子に座って、「めにゅー」から食べたいものを選んだの。  僕はハンバーグが食べたかったんだけど、ここのハンバーグは僕には大きすぎるからって、パパがお子さまランチを選んでくれたの。えっとね、僕の好きなエビフライとポテトサラダ、それからハンバーグもあるやつなんだって。あとね、プリンもついてくるんだって。僕は「わくわく」したの。  それでみんなの食べたいものが決まったから、店員さんを呼んでママが注文したの。そのときの店員さんは女の人でね、パパを見てすぐにほっぺを真っ赤にしてた。  でもね、ママが注文を始めると、一瞬で目が真ん丸になっちゃったの。 「えっと、お子様ランチとオレンジジュース。トマトの冷静パスタにミートソースのスパゲティ、それからマカロニグラタンにマルゲリータ。あと、シーザーサラダにフライドポテト。あ、カレーライスも食べたいかも……。それからデザートはコーヒーゼリーとチョコレートパフェとチーズケーキでお願いします!」  もちろん、パパの分も入ってたよ。  それから、何分も経たないうちに食事は運ばれてきたの。僕のお子さまランチもすぐに来たんだ。  僕はママにナプキンをつけてもらって、くまさんがついてるフォークで、ハンバーグを食べたの。 「露草、おいしい?」 「うん! おいしい!」  お子さまランチはとっても美味しかった!  ぺろりと平らげてお皿が空っぽになったあと、僕がオレンジジュースを飲んでいると、それまでごはんを食べていた他の人たちがこっちに注目していることに気がついた。  最初は、パパを見ているのかなって思ってたんだけど、みんなの目は真ん丸だったから、すぐに違うってことがわかったんだ。  パパの方を見ると、空っぽのお皿を一枚前にして、後で注文したコーヒーを飲んでいたの。そして……。 「う~ん。やっぱもう一品頼むべきだったかなぁ。ねぇ、悠壱さん。メニュー見てもいい?」 「先に、そこのパスタを片付けなさい。それから、デザートのアイスが溶け始めていますよ」 「え? やばっ。ピッチ上げなきゃ」  隣では、数々の空っぽのお皿を周りに、スパゲッティをペロリと平らげて、パフェを大口で食べ始めたところのママがいた。  パパはトマトのスパゲッティだけを食べて、それ以外は全部ママが食べたんだけど、みんなが驚いていたのはそれだと思う。 「悠壱さん。アップルパイも頼んでいい?」  ママはたくさん食べるから、僕はそれに驚きはしないんだけど。  ママのおなかの中って、いったいどうなっているんだろう? っていう、疑問はまだ「かいしょう」されてないんだ。  そんなみんなに注目されながらの食事は終わって、さぁ帰ろうってときだった。  「ちかちゅうしゃじょう」で車を停めていたパパは僕とママを連れて地下に下りたんだ。そこは迷路のような作りになっていて、たくさんの車があったんだけど、仄暗い場所だから僕は少しだけ怖かった。  僕は抱っこされずに、ママと手を繋いで先頭を歩くパパの後をついていく。  いつもだったらパパはママの横を歩くんだけど、そのときのパパは携帯電話を耳に当てていた。ほら、つばきくんがかりんちゃんのお家にいるから、迎えに行かなきゃいけないでしょ。だからパパは携帯電話でかりんちゃんに連絡してたんだ。  だけど突然、ピタリとパパの足が止まっちゃったの。 「悠壱さん、どうしたの?」 「自社からの着信です。すみませんが、先に行ってもらえますか?」 「うん。わかった」  お仕事の電話がかかってきたんだって。パパはポケットから車の鍵を取り出すと、ママの方にポイッて投げた。そしてそれをキャッチしたママは指にキーホルダーを絡めてくるくると回しだす。  かっこいいなぁって見ていたら、パパが「すぐに向かう」とママの耳元で静かに囁いて、エレベーター近くの方に行ってしまった。  そして僕とママはそのまま、車のほうに向かったんだ。  片手ではチャリチャリと音を鳴らしながら、そしてもう片方では僕の手を握ってくれるママ。その仕草がなんだかかっこよく見えて、僕はママと同じことがしたくなったんだ。  だって、パパはもちろんかっこいいけど、ママもたまにすごくかっこよく見えるんだよ。今はヘンテコな眼鏡をしてるけど、家にいるときはすごくキレイなんだよ。でも、そんなママがたまにかっこよくなる瞬間が、僕は大好きだった。なんだかね、とってもドキドキするの。

ともだちにシェアしよう!