13 / 46
おばけやしき編 8
「ちかちゅうしゃじょう」いっぱいに響く僕の叫び声に、不快へと顔を歪ませるお兄ちゃんの内の一人が、僕に向かって思いっきり腕を振り上げた。
「うるせぇっ! このガキ!」
「露草っ!」
ママの叫ぶ声。
でも、体の大きなお兄ちゃんは僕の服を掴んで逃げられないようにした。そして、お兄ちゃんの振り上げる拳から逃げることができない僕は、ぎゅって目を瞑ったんだ。
「っ!!」
「なッ……ギャアッ!?」
けれど。
僕の体は何ともなかった。
その代わりに。
突然お兄ちゃんが悲鳴を上げたから、僕はおそるおそる目を開けた。すると、信じられない光景が広がっていたんだ。
「煩いですね……」
冷たく微笑む鬼がいた。
僕をぶとうとしたお兄ちゃんは、振り上げた腕を背後の鬼に掴まれて、そのまま背中の方に持ち上げられていた。
「怪我はありませんか? 月草」
パパの声がした。
でも、おかしいの。パパの声が、鬼と同じ方向から聞こえてくるの。そこには、お兄ちゃんと鬼しかいないはずなのに。
混乱する僕を置いて、鬼は冷たく聞いてくるの。
「さて、どうしてこのような事態になったのか、説明してもらいましょうか?」
「ぎゃあぁッ!」
お兄ちゃんが一層叫んだ瞬間、何かが折れた音がした。
「悠壱……」
別のお兄ちゃんに捕まったままのママはパパの名前を呟くと、鬼がそっちに目だけを動かした。すると、お兄ちゃんたちは慌ててママから離れて、鬼に捕まったお兄ちゃんを残して車に乗り込んだ。
そしてすっかり怯えているお兄ちゃんたちは必死で車を走らせようとするんだけど、車はなかなか言うことを聞かないみたい。
僕は動けなかった。
ママが解放されたのに、僕は動けなかったんだ。
だから、ママが僕のほうに駆け寄って、僕をぎゅっと抱きしめた。
「ママ……?」
「目を、閉じてろ」
僕に囁いたママの静かな声。
それと同時に。
ドン!!
「私のモノに傷をつけたのは、貴方たちですか?」
「ひぃっ!?」
鬼は捕まえたままぐったりしてるお兄ちゃんを思いっきり車の「ぼんねっと」の上に叩きつけて、車に乗り込んだ二人のお兄ちゃんたちに尋ねたんだ。
車の中のお兄ちゃんたちは、目にプクーッと涙を浮かべていた。
パクパクと金魚みたいに口を開閉させて、鬼に向かって「ゆるしてください」と繰り返す。
でも、鬼は。
「おや? 答えられないんですか? それとも、ろくに口が利けないのですか?」
冷たい声で、命令した。
「……答えろ。ガキども」
あれから。
鬼とお兄ちゃんたちはどこかに行っちゃって、「ちかちゅうしゃじょう」に残った僕は、ママにパパの車の所まで連れて行かれた。
そしてママは僕を車の中に乗せると、携帯電話を取り出してかりんちゃんに連絡をとったんだ。
しばらくして、電話を終えたママが車の中に乗り込んだ。そして僕に、これからすぐにお家に戻ること、そしてつばきくんは、かりんちゃんのおうちに泊めてもらうことになったことを教えてくれたの。
僕は首を縦に振って頷くと、ママは「大丈夫? ごめんな」と心配する。すごくすごく、心配するんだ。なんでだろう?
首を傾げると、誰かが車へとやってきた。
パパだった。
そして、パパが車に乗ってシートベルトを締めると、お家に向かって車を静かに発進させた。
ともだちにシェアしよう!