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お熱編 ~白 side~1

 悠壱さんが風邪を引いた。俺が風邪を引いて寝込むことはあっても、この人は引いても寝込まないからなぁ。自分が弱ってるところを見られたくないせいか、そのように振る舞っちゃうんだよな。そのせいで露草たちの中じゃ完璧超人になっちゃってるし……実際は出張だのなんだの理由をつけて会社で寝泊まりしてただけなんだけどね。  露草たちが飯を食い終わる頃、俺は悠壱さんの好みに合わせたおじやを作り、それとは別に湯を沸かした。おそらく発汗して身体が気持ち悪いだろうからと、身体を拭くための湯を沸かしているわけだけど、薬も効いている頃だろうし、寝てるかな?  まあいっか。どうせ一緒のベッドで寝るし。湯が冷めてももっかい沸かせばいいんだし。俺はタオルと湯を入れたプラスチック桶を手にすると、寝室へと向かった。 「悠壱さん、起きてる? 腹、減った?」  ノックなしに扉を開け入室する。ノックのありなしを気にする仲じゃないけれど、この時ばかりはした方が良かったかもしれない。この人、寝姿を誰かに見られるのがすげぇ嫌だから。とはいっても、露草たちはリビングにいるから見られるわけじゃないんだけど。  返答はない。それはいつものことだなと思いながら、俺は静かに扉を閉めると、ベッドに近づきながら声を掛ける。寝てっかな?  チェストの上にプラスチック桶とタオルを置き、さらに悠壱さんに近づいて様子を窺う。 「悠壱さん。マジで寝て……うわぶっ!?」  と、いきなり腕を掴まれベッドへと引きずり込まれた。引きずり込まれたっていうか、悠壱さんの上に乗せられたというか。がっちりホールドされたわけだけど。  やっぱり起きてたじゃねえか、この人。それにこれ…… 「検温」  ガラガラになった低い声で、ただ一言そう告げる。だからさっき検温するって言ったのに 此奴は……  俺は心の中で文句を言いながら、悠壱さんの背中に腕を回して体温を測る。 「え~と……うわ。三十九℃あるぞ、これ……しんどい?」 「解熱剤のおかげでね……ケホケホ」  咳き込む悠壱さんから身体を起こすと、俺は彼の額に纏わりつく前髪を指で分けるように梳いた。こんだけ弱ってる悠壱さん見るの、ほんと久々。 「おじや作ったけど、食う? いや、それよりも身体拭こうか。すげえ発汗してるし、気持ち悪いだろ」 「そうですね……湯とタオルを用意して貰えますか?」 「ん。もう持ってきたからすぐにやれるよ。自分でやる? それとも俺がやろうか? やってあげようか?」  チェストに向かいプラスチック桶に張った湯にタオルを入れ水分を含ませる。そしてタオルを硬く絞ると、悠壱さんはベッドからゆっくりと起き上がって俺に尋ねた。 「お前はどうしたい?」 「ん?」 「私が弱っているところなど、今ぐらいですよ。お前の好きなようになさい」  ほほ~。そうきますか。  まあ確かにそう言われりゃそうだけど。いっつも主導権を完全に握られている身だけれど。やり返すなら今! な状況だけど。 「俺が病人で遊ぶと思う?」  俺は絞ったタオルを開いて腕に掛けると、悠壱さんの着ているシャツのボタンに手を掛ける。そしてそれを外しながら…… 「俺がやる」  にっこりと笑って悠壱さんのシャツを脱がし始めた。こんな機会、滅多にない! そりゃあもう、ここぞとばかりにやり返しますよ、ええ!  ウキウキと脱がし始める俺に、悠壱さんはと言えば無言でされるがままの状態。ボタンを全て外し終えて、シャツをベロンと脱がしたわけだけど…… 「いつ見てもムカつく身体してやがるな……チッ」  何でこうムキムキなんだよ。いや、マッチョとは言わないけれど。服着てるとあんまわかんねえけど。でも、こう脱いだらすごいんですっていう男だったら羨ましいこの身体っ……!  適度な運動って言ってたまにジムに行ってるの知ってるけど。俺も一緒に行くって言ったら止められたけど。くそうっ! 「腹が出ている怠惰な身体の方がお前の好みでしたか?」 「まだそっちの方が親近感あるじゃん。歳からいけば」  こう弱っている時でさえ、この人の身体は羨ましいんだから仕方ない。こうまじまじと見る機会もないから、さらに羨ましい……いや、セックスの時は見てるけど。素っ裸になるから、拝むこともあるけれど。でもその時は証明も暗くしてるし、それにそれどころじゃないというか…… 「白。ちゃんと拭いて」 「あ、うん。ごめん」  いかん、いかん。只でさえ今は具合悪いってのに、一人悶々としてどうする。俺は気を取り直して、悠壱さんの身体を拭き始めた。 「子供達は? もう食事を済ませましたか?」 「済ませた、済ませた。今は椿木が風呂に入ってるよ。なんだかんだで、心配してる」 「そうですか。華鈴は?」 「姉さんはテレビ観ながら旦那さんの迎えを待ってるよ」 「そもそも、華鈴は来る必要があったのですか?」 「しょうがないじゃん。あの人、こういうイベント好きなんだから。こっちも手伝って貰えて助かったし」 「イベント……?」 「ほい、前は終わったよ。次は腕な。右手、貸して」  タオルを再び湯で濡らし、絞り直して悠壱さんが差し出す右手を取る。あまり力を込めず、しかししっかりと汗を拭う。  そういや、こういう目的でこの人の身体に触れることもそうそうないな。たま~に一緒に風呂に入るけど、いっつも俺が洗われる方だし。洗わせてくれないし。  だからかな……なんか、すごい楽しいんだけど。

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