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ラブバードラプソディー 1
結婚指輪、というものを買ってみた。
上の子が中学を卒業するというこの歳になって、今まで持っていなかったそれを何故、買ったのか。それは……
「おねーさん。一人? 俺と一緒に遊びに行かね……」
「いや〜こう見えて俺、結婚してるのよ。お・れ」
こういうナンパから逃れる為だ。
装飾品が苦手で、結婚した時も指輪は要らないと断った。悠壱さんもそういうのに拘る人じゃなかったから、要らないと言った俺にそれ以上は何も言わなかった。またネックレスやピアスといった装飾品はかつて貰ったことがない。特に首元は何かを巻くこと自体が苦手だからだ。
しかし何故、今になって虫除け代わりに指輪を買うことにしたのか。それも、夫に黙って。
そもそも、結婚してすぐに子供に恵まれた俺は外出時には必ず子供か、夫を連れていたからナンパの類に目をつけられることが殆どなかった。夫と出会う前はど田舎もど田舎に住んでいたからか、声を掛けられることがイコールでナンパではなかったし、都会に出てきてすぐにその夫に出会った所為もあってナンパには縁がなかった。こんな白一色の髪だしな。
それが子供たちが大きくなり、一人で外出することも多くなったことからこういった輩に目をつけられることが多くなった。最初は髪の色が目立つせいかと思っていたけれど、女の子のように可愛い下の息子と並んだ時に、お姉さんと声を掛けられたことで他人からの認識が自身と異なることを理解した。
マジか、と。
他人から見目良く映ることに嫌な気持ちはしないけれど、実際はもういい歳のおっさんで、しかも同性と結婚している身だ。そういった欲も年々薄れている自分にしてみればあまり嬉しいものではない。
じゃあこの際だからと、夫に指輪を強請るのも変なわけで。身につけたい理由も理由だし、外に出る時だけなら何も結婚指輪を揃いで買う必要もないという自己判断のもと、俺は単身で……しかも雑貨屋で適当に指輪を購入した。シンプルなものを左の薬指に嵌めればそれらしく見えるだろう、と。
実際、効力はまあまああった。つけていない時より、つけている時の方が連中の引き下がりは早い。
が、俺は買い物を少々失敗してしまったらしい。
「見栄張って大きめのサイズにしたのが良くなかったかっ。くそうっ。抜けるっ」
自分の指のサイズがよく分からん俺は雑貨屋で指輪を試着していた際、隣で恋人と仲良く指輪を見ていた女の子と同じ指のサイズだったことに何かしらの敗北感を受けた。そして少しだけならと一回り大きめのサイズの物を選んでしまった。これが意外と抜けやすくて、気をつけて嵌めないとどっかしらに落っことしてしまうのだ。
それがまさか、あんなことになってしまうとは――…
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