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ラブバードラプソディー 4
次の日。
「腰が……痛え……」
ベッドのマットレス。その上にドーナツ型のクッションを置き、さらにその上に尻を落ち着かせて胡座をかく俺は、腰を労わるように擦る。
結局、晩飯予定だった焼肉はナシになって、魚になったらしい。らしい、というのは自分が晩飯を食いっぱぐれたからで。ほぼ一日、寝込んでしまったからで。
お互い歳食ってるはずなのに、どうしてあの人だけ性欲が衰えないんだ。
今朝、艶々した顔で家を出てったぞ。バケモンか。
「もう。初めから素直に言っておけば良かったのに。揃いの指輪を買うくらい、あの人は何とも思わないでしょうよ」
俺よりもワントーン低い声のオネエ言葉でそう言うのは、寝込む俺を心配した椿木がヘルプとして呼んで来てくれた華鈴姉さんだ。
この人も老けないんだよなぁ。元から美人な顔立ちだけど俺と同じ男なのに化粧はするし、ファッションなんかのお洒落が上手いのもあるけどさ。性欲の衰えについて相談した方がいいのか? いや、華鈴姉さんは参考にならねえな。毎夜、パコパコヤッてそうなくらい仲良い夫婦だし。
それはそうと。
ヘルプといっても、姉さんはのんびりコーヒーを飲みながら俺の傍にいるだけ。特に俺を労わることはなく、しかし飲み物の有無くらいは聞いてくれる。ただ寝込んでいるよりは話し相手がいて俺も嬉しいから、姉さんのこの距離感と対応が丁度いいんだけど。
かといって、今回の出来事を赤裸々に語るには恥ずかしいものがある。穴があったら入りたい。そんくらい恥ずかしい。こんな内容でこんな体たらくになっていることにもだ。
「ま、過ぎたことはぶちぶち言ってても仕方ない。いいじゃない、結婚指輪。特に拘りないんでしょ? 高い物を強請るわけじゃなし……あら、このチョコ食べていい?」
「いや、だってさ。恥ずかしいだろ。こんないい歳して指輪が欲しいから買って〜なんてさ。それに、つける理由も不純だし……姉さん、ちょっと腰擦って。チョコ食ってていいから」
「あら、モグモグ……意外と喜ぶんじゃない? 私は強請られると嬉しいわよ……こんな感じ?」
「そりゃ、姉さんはね……あ〜そう。そんな感じ〜」
さすが姉さん。良い力加減で腰を擦ってくれる。
相変わらず細い腰ね〜って言われてるけど、その細い腰を労わらないのはウチの旦那です。
「あの人も喜ぶと思うけどねぇ」
「指輪欲しいの〜♥ ってお強請りしようもんなら、鬱陶しいって一蹴されそうなんだけど」
「今のイラッとくるわね。そうじゃなくて、物は何であれ自分にお願いをしてくれるって旦那にしてみれば嬉しくなあい?」
「う~ん。そんなもんかなぁ?」
「白は嫌?」
「内容による」
「それもそうね」
結局のところ、よくわからなかった。
「でもね、あの人の独占欲はちゃんと理解しておいた方がいいわよ。じゃないと貴方、子供が成人して外に出た途端に囲われるわよ」
「んな馬鹿な……マジで?」
そんな会話をしている内に、悠壱さんは帰宅した。華鈴姉さんとそこそこ楽しく駄弁ってる最中だったが、旦那の帰宅ということで姉さんは早々に帰ってしまった。気まずいからもうちょいいて欲しかった。
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