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プール編 ~白 side~1
【白 side】
ヴー。ヴー。
あらら? 電話だ。誰から……ああ、華鈴姉さんか。
「もしもーし。華鈴姉さん?」
『もしもし~? そっちは着いたかしら~? プールは楽しめてる~?』
携帯向こうでテンションが高い華鈴姉さんに、俺は苦笑しつつ短く答える。
「さっき着いたとこだよ。姉さんの方はどう?」
『ええ。お陰様で夫婦水入らず、楽しんでるわ。わたがしちゃんや、まんじゅうちゃんも、とってもいい子にしてるわ~』
相変わらずラブラブそうで何より。本当は華鈴姉さんたちもこの旅行に誘ったんだけど、二人ともすでに用事を入れていて、息子の菖蒲君だけを連れていくことになった。
その間、わたがしやまんじゅうを預かってくれるとのことでそれは大いに助かった。二匹とも姉さんに懐いているしな。
それはそうと。
「姉さん、機嫌いいね。どうしたの?」
『ふふ~。ウチの旦那が結婚記念日にお花を買ってくれたのよ。プリザーブドフラワー。ほら、何年か前に私たちって大喧嘩したじゃない? あれから毎年欠かさず、私の為に何かを贈ってくれるのよ』
「あ~、結婚記念日を忘れられた上に数日前から仕込んでおいたビーフシチューをスルーされたって大泣きしてウチに駆け込んできた時のね。あん時は大変だったわ……」
俺は当時を思い出した。
ーー数年前ーー
俺が地毛の白髪を子供たちの前でも解禁して数日が経った頃。我が炬家じゃのほほんと朝飯の準備を始めて平和に過ごしていたある日。
どこのゲームファイターだってくらいの連打ピンポンをかまされた。
何だ何だと玄関を開けると、当時小学生……三年だったかな。露草と同じ学年の菖蒲君を連れた華鈴姉さんが荷物を纏めて押し掛けてきたんだ。
土曜日だったから学校はないし、露草や椿木は菖蒲君が遊びに来たと喜んでいたけれど、当の連れてきた姉さんはそれはもう怒り狂っていた。
おしどり夫婦のこの二人にとって結婚記念日は大切なものらしい。ウチじゃ何にもやらないからただ日にちが過ぎていくだけなんだけど、毎年この日だけはと姉さんが腕を奮って旦那さんが好きだというビーフシチューを数日掛けて作るという。
当時、タイミングが悪かったんだろう。旦那さんは仕事が忙しく、ろくに帰れてなかったらしい。そんな旦那さんを心配して、食事だけはしっかりしたものをと毎日こさえて職場まで持っていってたらしいし、そのビーフシチューもいつも以上に美味くなるよう真心込めて作ったとのこと。
それを疲れていたとはいえ、家に帰って姉さんの声かけも気付かずベッドへ直行だったらしいから、姉さんの気持ちはわからんでもない。わからんでもないけれど、そんなに怒ることか? と思ってしまった俺。
ウチと他所じゃ夫婦のあり方が違うから、ウチの当たり前が他所でも当たり前と思っちゃいけないけどな。
で、ひとしきりわんわん泣いた姉さんは何を思い立ったのか、朝飯をまだ食ってる俺やおやつを食べていた子供たちに向かって、
「プールよ! プールに行きましょう!!」
と、大きな声で提案したんだ。提案というか、ほぼ強制で連れていかれたけどな。
この年に出来たばかりの大型海水プールへ。
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