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プール編 ~白 side~5
「おねーさんは何食べたい? 焼きそば? クレープ? それとも、お・れ? きゃー!!」
「特大バナナにチョコレートかけちゃう!!」
「イェ~!!」
「はは~……帰りて~……」
ボソッと呟いた俺。もうこの際、誰でもいいから助けて欲しいと他力本願になって頭を抱えていると、周りから「きゃあ!」という悲鳴が沸き起こった。
何だ? と、顔を上げてみると……
「私の妻に、何か用ですか?」
「…………嘘、だろ」
そこには周囲の目をこれでもかってほど集める俺の旦那さん……悠壱さんが立っていた。それもスーツ姿で。
それから……
「あ、ママ! パパ!」
「菖蒲。いい子にしてたか?」
不貞腐れた顔の華鈴姉さんと、その旦那さん……嶌田の兄こと克哉さんも一緒に。
え、なに? どゆこと? 何で悠壱さんがここに!?
混乱する俺を余所に、その答えは菖蒲君が胸を張って説明してくれた。
「僕がね、パパに教えたの。ママは怒ってるけど、白お兄ちゃんがすごく困ってたから、教えなきゃって!」
そう言いながらキッズ携帯を自慢気に突きつけられた。菖蒲君、なんて良い子なんだ……!
俺がちょっと感動したのも束の間、ついさっきまでテンションが高かったパリピの子達が悠壱さんの気迫にやられて怯み始めた。うん、わかる。めっちゃわかる。何にも言ってないのにうちのパパ、怖いよな! 頼むからこのまま逃げて、すぐ逃げて!
と、願ったその時。
「だめー! 白ママは僕のなの!」
「え……? わぶっ!?」
プールを楽しんでいたはずのウチの下の息子が俺の危機? に駆けつけてきて、俺を助けようとプールの中にいる自分の方へと引っ張りこんだ。当然、俺はその拍子でバランスを崩し、上体からプールの中へと突っ込んだ。
バシャン! という水音が激しく立って、俺は全身まるっとずぶ濡れ状態になったわけだけど……
「ぷはっ! けほけほっ……つば、つばきっ……いきなりは駄目だって……けほこほっ」
口と鼻の両方に水が入って豪快に咳き込む俺。背中を丸めてコホコホと水を吐き出していると、それまで俺を女と信じていたパリピの子達が。
「お、おとっ、男!?」
「よく見りゃあれ、海パンじゃん!」
「いやでもっ……俺はアリ」
衝撃の事実を突きつけられたとばかりに驚いていた。どさくさに紛れて有り判定をした奴はこの際無視した。
「ママ、大丈夫?」
「ごめんなさい……ママ……」
「うん……大丈夫。それより……」
うわ。びっちゃびちゃ。濡れるのは覚悟してたけど、髪までぐっしょりになっちゃって……これなら最初から一緒に入って遊べば良かったと少しだけ後悔した。
再びプールサイドに手をつけて上体を上げると、何やらどよりと声が上がった。何よ、今度は。
顔を上げると、華鈴姉さんが慌てた様子で俺に向かって……
「やだ、白! 胸が透けちゃってるじゃない!」
「え、なに? 胸?」
言われるがままに俺は首を落としてベッタリと胸に張り付くTシャツを見ると……あらま、ほんとだ。上体が透け透けで乳首まで見えてる。だからってどうしてこんなに周りがどよめくんだよ。
「黒いTシャツの方が良かったか……なっ!?」
そんなことを言い切る前に、俺は強い力によってプールから勢いよく引っ張り出された。
「わわっ、悠壱さ……ぶっ!?」
引き上げた犯人は言わずもがな、俺の旦那さんだったんだけど、奴は乱暴気味に俺の頭にバスタオルを被せた。ちょっと痛ぇ。
そして周りが見えない俺を余所に、悠壱さんは子供たちに優しく声を掛け……
「月草、椿木。白はこれから着替えてくるので菖蒲君とここで遊んでなさいね。華鈴たちが傍にいるのでお昼は彼らと一緒に食べなさい。何を頼んでも今日は許します。それから、今夜は隣のホテルで泊まります」
「ほんと!? お泊まり!? やったぁ!」
「ソフトクリーム、食べていい!?」
「ええ」
「悠壱さん、ソフトクリームは俺も食べた……いいっ!?」
声音が優しかったからてっきり怒ってないものと思い、俺も子供たちに便乗しようとしたんだけど、どうやら優しかったのは子供たちに対してだけで俺はタオルを被せられたままガッシリとホールドされて、隣のホテルへと連れていかれたのだった。
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