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ラン君の憂うつ 3

 ーーーー… 「だーかーら! アンタが引かねえなら俺も動くつもりはないんですよ!」 「じゃーなに? お前、ずっとここでぼっちすんの?」 「アンタに帰れって言ってんです!」 「んな連れねえこと言うなよぉ」  菖蒲さんの連絡から急いでマンション下に駆けつけると、月兄が同じ学生服を着たデカい男に絡まれていた。しばらく見ない内に月兄、また背が伸びたみたいだけど絡んでる相手がさらにデカくて小さく見える。  つうか……月兄に絡んでる男って……  エントランスを出たところで菖蒲さんがスマホ片手におろおろしていて、白兄が指を差しつつ彼に尋ねた。 「どったの、あれ」 「その……あの人は学校の先輩なんですけど……どうしてか椿木君に会わせろって聞かなくて。僕達がここに来たら待ち伏せしてて」  マジかよ。それはさすがに引くわー。そうまでして椿木をヤりたいかね。  俺ははーっと溜め息を吐くと、白兄の袖をクイクイ引っ張った。 「……あれだよ。白兄」 「ん?」 「俺のエロ兄貴」 「あらま」  ダブって高三だってのは知ってたけど、まさか月兄と同じ学校とはね。てか学校、ちゃんと行ってたんだ、あのヤリチン。  すっかりギャラリーとなった俺たちの存在に気付いたあいつが、ヒラヒラと手を振って俺に尋ねた。 「ん? おお、俺のおとーと。やっぱここ、当たり?」 「おとうと……? この人、ランの兄貴なのか?」  肩に手を回されて捕らわれている月兄がエロ兄貴を押し退けつつ俺に尋ねる。もう、二人して尋ねてこないでよね。俺、面倒なのちょー嫌い。  肩を竦めて月兄の質問にだけ答えた。 「一ヶ月前からの義理だけどね」 「んだよ、冷てぇなぁ。お前も荒垣になったんだからそんな邪険にすんなよ」 「俺は旧姓のままだよ」  あらがきあらき、なんて面白すぎるじゃない。 「もう椿木は諦めたら? ご近所迷惑でしょ」 「いーや。こいつが兄貴だって知って俄然興味湧いた。あの強気なツラを押し倒してアンアン言わせてぇ」  うーわ。最悪。間近で聞いてる月兄がドン引きしてるじゃない。アンタもツラがなまじ良いからって言って良いことと悪いことがあるでしょ。  てかさ。 「その親の前でそんなこと、言う?」 「親ぁ?」  エロ兄貴はキョロキョロと辺りを見渡した。椿木の親らしき人を探してるんだと思う。いますよー、ここに。白い人がいますよー。  事の一部始終を見ていた白兄が、「こりゃ相当だな」と苦笑する。そして月兄の傍、引いてはエロ兄貴の傍まで近寄ると、あいつの前でにっこり笑った。 「はじめまして、荒垣君。悪いけど、ウチの子を離してくんないかな」 「ウチの子?」 「そ。ウチの子」  月兄を指差して言う白兄。月兄、エロ兄貴共に身体がデカいから華奢な白兄が見上げる形なんだけど、全然臆してない。これでエロ兄貴が月兄を解放してくれれば…… 「ああ、いいぜ」  ほ? 「うわっ」 「月草君っ」  あっさりと月兄を解放したエロ兄貴。若干突き飛ばすように月兄を追いやった。大人の言うことは聞くのか?  いや……このエロ兄貴がそんなタマかよ。白兄を見下ろす様が、完全に獲物を狙う目つきだ。ニヤリと笑う口元に俺は脅威を覚えた。 「白にっ……」 「へーえ。遠目からじゃ白髪のババアにしか見えなかったけど、こんなに若い兄さんとはね」  そう言ってこのエロ兄貴は、白兄の顎に手を添えて顔を近付ける。 「綺麗なツラしてんじゃん。月なんとかと椿木の兄貴さん?」  しかも勘違いしてるっ。親だっつってんだろ、このバカ兄貴!  さすがにこれはダメだと割って入ろうとする。でもその前に沸点に達してしまった人達がいた。 「てめぇ、いい加減にしとけよ。そのタマ、潰されてぇのか」  さっきまで狼狽えてた菖蒲さんの目がすっと据わり、白兄に触れる魔の手を掴み上げつつエロ兄貴をこれでもかと睨みつけていた。  いきなり頼もしいけど……キャラ、変わりすぎじゃね?  続いて月兄が白兄をエロ兄貴から引き離すと、 「人の母親にちょっかいかけてんじゃねえよ」  と、こっちも睨む。俺の出る幕はなし。 「……母親?」  エロ兄貴、ぽかんと口を開けて白兄を見る。髪が長いとはいえ、今日の白兄はロンTにジーンズとどっからどー見てもこの二人の兄ちゃんなわけで。  しばらくしてエロ兄貴、やらしく舌舐りをしやがってから…… 「人妻とか、ちょーそそる」  とかなんとかほざきやがった。火に油を注いでんじゃねえよ、マジで。ややこしい話をさらにややこしくしてんじゃねえ。

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