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一 ②

 カラオケにやってきた一同は、お喋りもそこそこに。  一番手は涼。流行りの曲で一気に盛り上げ、誰かが飲み物を切らせばすぐに追加注文する。歌うわ踊るわ、落ち着きが無いのもたまには役に立つ。 「ねぇねぇ、大河君も何か歌いなよぉ」  頭のてっぺんから出しているような声で身を乗り出してきたのは聖。 「オレは今日は聞き専」 「ええ、つまんなーい。歌超うまいって聞いたのに」 「そうだぞ響! お前も盛り上げろ!」 「やかましい! マイク持ったまま叫ぶな!」  響が歌えば、また聖は響に気を向ける事になるのに、涼はそれに気付けず場を楽しませる事に夢中だ。  いつも響が何かすれば聖は涼を見もしなくなるのに。ボーリングの時も、ゲームセンターの時も、授業の体育だって。だから響は歌わないと言ったのに。  まぁでも、うるさい涼が自分が歌う時は黙って聞くのは面白い。  結局カラオケの間中聖は響にベタベタと、うっとおしい限りだった。 「……何で涼はあんなのが好きなんだ」  支払い待ちの間、響は外の空気を吸ってぐったりと呟いた。同じく外に出てきた華が、響に店員から貰った団扇を差し出す。 「あ、どうも」 「あいつ昔っからああゆうタイプが好きなんだよねぇ。フワフワしてて、いかにも女の子ってタイプ」 「へぇ、海岡とは正反対だ」 「どうせあたしゃ女子からカッコいいとか言われる女ですよ」  けらけらと笑う華は大きく伸びをして、完全に名前負けだよねと少し重い息を落とす。 「海岡」 「なんでしょう」 「お前涼の事が好きなんだろ?」  ぎょっとして振り向いた華は、慌てて響の口を押さえ真っ赤になり辺りを見回す。 細腕を軽々ほどいた響は少し声を落として続ける。 「まだ勘定中。何で空閑とくっつけようとしてんの?」 「……別に、くっつけようとしてる訳じゃないよ。まぁ今は、涼の馬鹿が楽しい方がいいかなって」 「ああ……そうだね、わかるなぁそれ」 「へぇ?」 「いや、オレも好きなやつ居るけどさ、困らせるより、楽しそうにしてくれてる方が嬉しいよな」  途端華は瞳をきらきらさせて響の顔を覗きこむ。恋の話に貪欲に食いつく姿は、他の女子と変わらない。 「大河って好きな子居たんだ! 全然気付かなかったー。誰?」 「そうだな、同級生、同じクラス」 「マジで!? うっそ誰だろ?」 「海岡もよーく知ってる奴」 「聖じゃあないもんねぇ……」  華が首を捻って唸りだしたところで、支払いを済ませた涼と、お手洗いから戻った聖が揃って店から出てきた。  涼は響が華と楽しそうに話しているのを、少し意外な気持ちで見た。 「はい時間切れ」 「えー教えてよー!」 「当たったら教える」 「なにそれずるい」 「二人も出てきたし、さぁ帰りましょう」  くすくす笑いながら響は店から出てきた二人に合流する。華は響の後ろでまだうんうん頭を悩ませている。 「なんだ涼、馬鹿みたいな顔して」 「いや、お前が女子と話してるの珍しいなあと思って。それも楽しそうに」 「ああ……そうだな、珍しいかもね」 「大河君っ!」  涼の隣で面白くなさそうに携帯をかしかし言わせていた聖が、響を見つけてころりと笑い、響の腕に絡まってくる。大きな瞳で響を見詰め、豊満な胸をぎゅうぎゅうと腕に押し付けて来る。 「ねぇねぇ、もう帰っちゃうの? 一緒にご飯食べようよぉ」  いつの間に決定したのか、三人はこれから夕食に行くらしい。涼が視界の端で響を悲痛な面持ちで拝んでいるのが見えるが、これは響をダシにして聖を誘ったのだろう。 「いや、オレは帰る」  素早く涼が反対の腕をつかみ、聖から引き離してひそひそと響の額に額を寄せる。 「頼むよ響! 今回だけ!」 「知ってるだろ涼、オレは外でもの食べられないって」 「この通り!」 「そればっかりは無理。体質だからどうしようもないよ。一緒に飯行って水しか飲まないのも失礼だろ。しかもミネラルウォーター無かったらアウトだし」  涼はがっくり肩を落とし、悪かったと一つ謝る。 「まぁ他の事だったらいくらでも付き合ってやるから。そうガッカリしなさんな」  小さくなった涼の肩を勢いよく叩き、嬉しそうに満面の笑みで女子二人の元に戻る姿を見届け、響は一人家路についた。  背中に聖の喚く声が聞こえていたが、響は振り向きもしなかった。

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