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九 ③

 ──婚儀から三日過ぎた常世の長い夜、婚儀に次ぐ大事な儀式が執り行われようとしていた。  儀式と言っても、婚儀のように民衆を巻き込み大々的にやるものではなく、当事者の二人以外は邪魔しないよう見守るだけだ。  この日響は、三日三晩の断食を終え、身体中をすっかり常世の空気と水と入れ換え、人ではないものに生まれ変わったところだった。  話を聞いたのは、婚儀の翌日。二日酔いで話も出来ない煌隆に変わり、仕事を奪い合うように現れた将極と秌からだった。 「媛响様は三日三晩断食を行い、すっかり現世のものを排した後、こちらの川の水だけをお飲みになり常世のものと入れ換えてしまいます」  二人入れ替わりで話したためところどころ理解出来ない話もあったが、概ねこんなところだった。  三日三晩が過ぎると、響の体には何の痛みも動きもなく、ただ夜が明ければ変化は終了していた。強いて言えば朝目覚めた時、身体中に風が吹き抜けるような感覚の後、ふっと軽くなった感じがしただけ。  本来は煌隆が直接響に説明したかったらしいが、二日酔いのまま仕事に追われ、いつもより手間取ってしまいその暇も取れなかったらしい。  まるで現世のサラリーマンのようだ。  そうして煌隆と同じ──もっとも、屋敷に住む官吏の殆どがそうだが。不老不死の体となった響、やっと煌隆と顔合わせする時が来た。 婚儀が終わってから響は面紗を取って冠も被らずいたが、煌隆と会える機会が全く無かった。  秌に連れられ、響は内裏の煌隆の居室前に来ていた。 「秌さん、何かドキドキするんだけど。何か会うのも久し振りな気がして、緊張します」  秌は胸を押さえる響の肩にやんわり手を乗せる。 「きっと主上も同じ気持ちでございますよ」  一緒に来ている女官に目配せし、響の前に几帳を掲げ襖を開く。几帳は響の姿をすっぽり隠し、足許だけが見える状態だ。  先に打ち合わせした通り、ゆっくり先を歩く二人の後を、響は帷を見ながら進む。少し進んで秌と女官が低頭したのを合図に響は静かに座り、額を畳に付ける。それを確認した二人は几帳ごと響の横へ回り、そのまま静静と退室し襖を閉めた。  すぐに頭上から煌隆の美しい声が降ってくる。 「響。何やら随分久しいようだ。さぁ、面を上げて早くお前の顔を見せておくれ」  自分も早く、煌隆の顔を見たかった。  響はごくりと喉を鳴らし、ゆっくりと上体を起こす。

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