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第一章・8
無駄に歩き回っても疲れるだけで、気分はどんどん落ち込んでいく。
このまま明日を迎えたくはなかったので、最後はアルコールの力を借りる事にした。
どの店に入ろうか。
思いつく場所はどこも雰囲気はいいが、そのぶんカップルが目立つ店ばかりだ。
すっぽかされたばかりの身には辛い。
秘密の隠れ家的なバーも知らなくはない。
しかしマスター相手に静かにもくもくと飲んでいては、どん底まで行ってしまいそうだ。
思い悩んだ末、絶対に一人では行かないような所を選んだ。
以前聡士に一度だけ連れて行ってもらったことのある、裏通りのさらに裏にある店。
猥雑な、だが熱い活気に満ちた雰囲気は落ち込んだ気持ちを引き上げるにはもってこいのスポットだと思った。
謎のトルコ人が経営しているという薄暗いそのパブには、多種多様な人間がひしめいていた。
やたら声のでかい遠洋漁業の漁師や、派手なシャツを着たチンピラ。
青白い顔の男が突然立ち上がり、自作の歌を歌いだしても誰ひとり気に留める者もなく、なにやら怪しげな密談をしている風の、人相のあまりよろしくない二人組もいた。
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