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第一章・9
カウンターに一人で座って、飲んでも飲んでも酔えない酒を飲み続けた。
ようやくふわふわし始めかな、と思った頃はもういい時刻だった。
寮長に、外泊届は出していない。
日付が変わるとやっかいなので、そろそろ帰ろうかとした時に、誰かに声をかけられた。
「ひとり? よかったら、一緒に飲まない?」
見ると、若い男が立っていた。
カジュアルな服装だが、そのシャツには小さく高級ブランドのロゴが入っている。
平均の上をいく整った顔立ちをしており、よほど自分に自信があるのかナンパに踏み切ったというわけだ。
確かに、と藍は店内を見回した。圧倒的に男性客。
数少ない女性は全て男と連れ沿っている。
見た目はまるっきり女の自分に声をかけるのも無理はない。
こんな店に一人で来るなんて、ちょっと普通っぽくない面白い女の子、と思われたに違いない。
でも、と藍はにっこり笑った。
「僕、こう見えても男なんだけど、それでもいい?」
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