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第一章・10
そう言うと若い男は、ウソ、と笑った。
二言三言やり取りするうちに、こいつはどうやら本当に男だったとやっと解かってくれたらしく、頭をかきながら奥に引き下がって行った。
眼で後を追うと、彼が着いた席にはその他数名の男たちが座っており、先程のナンパ君が何やら告げると藍の方を向いて一斉に笑った。
グループで一番のイケメン君を囮に、女の子を引っかけようと思っていたらしい。
当てが奇妙な方向に外れ、さぞ驚いただろう。
グラスに残っていた酒を飲み終えた藍は、もうそれ以上注文するのはやめて席を立った。
店の中は薄暗いと思っていたが、意外に照明は明るかったようだ。
表に出た途端、夜のとばりは考えていた以上に深く藍を包み込んだ。
しだいに眼が慣れてきた頃、後ろから突然肩に太い腕が回されてきた。
「よう、久しぶり。どうだ、元気にしてたか?」
「奇遇だな。こんな所で会うなんてよ」
あれよあれよという間に、藍は数人の男たちに取り囲まれた。
誰もかれもが馴れ馴れしい口をきき、体を擦り付けまとわりついてくる。
だが、その行動とはうらはらに知らない顔ばかりだ。
いや、知った顔がひとりだけ。先程のナンパ君だ。
となると、あの時のグループか。
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