12 / 49

第二章・1

 胸をまさぐられ、布越しに股間を撫でられた。  ホントに男だ、と驚いた声があがり、下卑た笑いに囲まれた。  とにかく、走って逃げるしかない。  高等部の時は、陸上をやっていた。  その脚力をもってすれば、簡単に彼らを巻くことはできるだろう。  だが、今の藍にはただひたすら億劫だった。  指一本動かす気になれないほどの無気力さが、心身のどちらにも絡みついていた。  こんな時、映画だったら主人公が颯爽と助けに現れるのにな。  そんな事をうつろに考えた。  だが、現実はそんな都合のいいものではない。  聡士が現れるはずもない。  聡士。  彼の顔が、脳裏によぎった。  聡士の馬鹿。  あなたが僕をすっぽかしたりするから、こんな事になるんじゃないか、と心の中で拗ねた。

ともだちにシェアしよう!