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第二章・4

 まずは一人分の腕が伸びてきた。頬を、首筋を、肩を撫でまわしてくる。 「俺は男を犯ったことあるんだよ。昔、付き合いでな」  どういう付き合いだ、と藍は心の中でつぶやいた。  頭の中は、ぼんやりとしているわりにはひどく冷静だった。  やがて二人、三人と体を撫でまわす腕の本数が増えていった。 「いい肌してるぜ。吸い付いてきやがる」 「髪の毛サラサラ。美味そうな匂い」  胸の尖りをきつくつままれても顔色一つ変えない藍に、男のひとりが何やらポケットから取り出した。 「もっとリラックスしろよ。楽しもうぜ、お互いによ」  ペンライトの明かりに浮かび上がるそれは、アンプルと細い注射器だった。 (ドラッグ)  おそらくアッパー系のものだろう。  これからセックスを楽しむというのだから、コカインか。  コカインをスニッフィングではなく静脈注射するようにして持ち歩いてるなんて、よほどコアなユーザーかと思われた。

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