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第三章・24

 焦る藍とは対照的に、聡士はやたらのんびりした口調で答えてきた。 「すっぽかした」 「ええっ!?」  いけない、それはいけない、と、藍は慌てた。 「早く連絡して謝ってよ。今なら、まだ間に合うかも。許してくれるかも」 「いいんだ、もう」  これでいいんだ、と、聡士はもう一度藍の指にキスをした。  あんな女、もうどうだっていい。  今目の前にいるこの人と比べれば、世界中のどんな女だって、男だって、もうどうでもいいのだ。  聡士は、藍の手を、両てのひらで包んだ。 「記念日、おめでとう。ちょっと遅れちゃったけどな」  藍は息を飲んだ。  覚えててくれたのだ。  聡士は、この腕輪を。  思い出してくれたのだ、僕の記念日を。  胸の内に、熱いものが込み上げてきた。  眼に涙がにじみ、視界がぼやけてきた。

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