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体液を絡ませた手でフレデリックの後ろの蕾を解しながら、辰巳が囁いた。
「優しくしてやった事なんて一度もねぇからな。今日はとことん甘やかしてやる」
屹立を舌で舐め上げられ、指を後孔に突き入れられてフレデリックはきつく目を閉じた。眩暈がするほど気持ちが良い。それは、フレデリックにとって普段の行為とは全く異なる種類の何かだった。
辰巳のもう片方の手が太腿を辿り、膝の裏を撫で上げる。辰巳の触れている箇所から熱が全身に広がっていく。焼け爛れてしまいそうな程に躰が熱かった。
フレデリックが堪らず頭を振る。
「はっ…ん…っ、おかしく…なる…っ」
「なっちまえよ。どんなお前でも愛してやるから」
な? と、そう言って再び屹立を飲み込まれ、後孔を指でくじられてフレデリックは嬌声を迸らせた。武骨な指に敏感な部分を抉られて、爪先からせり上がる快感に躰全体が痺れる。フレデリックの眦から生理的な涙が零れ落ちた。
強烈な快感に感情ごと流されそうで、フレデリックはきつくシーツを握りしめる。これまでに感じた事のない感覚は、フレデリックに恐怖をもたらした。自分を見失いそうで恐ろしくなる。
「あっ…ぅあ、あ…あぁッ、嫌だ…怖いっ、攫わないでッ」
過ぎた快楽に縋るものもなく涙を振り零すフレデリックに、辰巳は指を引き抜いてその躰を抱き締めた。
「大丈夫だフレッド。お前はちゃんとここにいる」
「辰巳……辰巳っ、僕を…離さないで…!」
フレデリックは背中に回した腕で辰巳の躰を掻き抱く。辰巳の大きな躰にしがみ付けば、少しだけ安定を取り戻す事が出来た。優しく髪を撫で梳く辰巳の手が心地良い。
激しさなど微塵もない触れ合いが訳が分からなくなるほど気持ち良いなど、フレデリックにとっては初めての事だった。信じられないと思うのに、現に躰が反応してしまって戸惑いを隠せずにいる。
「どうしよう辰巳…躰がおかしい…」
「ああ? 別におかしかねぇだろ。惚れた男に抱かれるってなそういうもんだ」
「……僕は…女じゃない…」
「こんなでけぇ女がいて堪るか阿呆。男が男に惚れて何が悪ぃんだよ?」
気付くのが遅ぇんだよ。と、そう言って笑う辰巳がいつもより男らしく見えてしまって、やっぱり戸惑うフレデリックである。
「こんな気持ちになったのは…初めてだよ…」
「たまには大人しく愛されてろよ。俺の可愛い子猫ちゃん?」
「ッ!!」
くつくつと喉の奥で笑いながら、辰巳はフレデリックの唇を奪う。本当に、気付くのが遅いと、そう思う辰巳だ。
普段がアブノーマル過ぎて、単純に愛される事を知らないフレデリックは可愛らしい。甘やかすだけ甘やかしてぐずぐずに溶かしてやったらどんな反応をするのだろうかと考えるだけで、辰巳は愉しくて仕方がなかった。
「休憩は終いだフレッド。いい加減お前のナカに入らせろ」
ピクリと、フレデリックの肩が震えた。優し気に目を眇めた辰巳に見下ろされ、酷く恥ずかしい。ゆっくりと時間をかけて飲み込まされる屹立に、自身のナカが待ちかねたように絡みつくのが分かった。慣れ過ぎた躰と、慣れない感情にフレデリックは苛まれる。
「んんっ…ぁっ、熱…ぃ」
「お前のナカは…気持ちが良い」
耳元に囁く辰巳の声がとてつもなく色っぽくて、フレデリックは眉根を寄せた。初めての事でもないのに何もかもが新鮮で困惑する。不慣れな刺激に全身を強張らせていれば、さらりと脇腹を撫で上げられて腰が跳ねた。反動で内側の粘膜を抉られて声が漏れる。
「ひ、あっ…ぁっ」
零れ落ちる嬌声さえ恥ずかしくて自ら口を塞ごうとしたフレデリックの手は、辰巳に捉えられた。
「そういう…可愛らしい声は嫌いじゃねぇな。もっと喘げよ」
「あっ…んっ、あぁ…っ」
揺さぶられ、ナカの媚肉を抉られる度に零れ落ちる声を止められなくなる。可愛いとそう言われるだけで嬉しいなんてどうかしていると思うのに、フレデリックは心まで気持ち良くなるのを感じていた。
感じる部分を辰巳の雄芯が擦り上げて、堪らずフレデリックはひと際大きな嬌声をあげる。苦しいくらいの快感が突き抜け、再び快楽の波に流されそうになって、フレデリックは辰巳の背に爪を立てた。
「んぁッ、ああっ…アッ、だめ…ッ」
「駄目じゃ…ねぇだろ、良いって言ってみろ」
ほら…と、ゆるりとナカの敏感な部分をくじられて、フレデリックは気持ち良さに眦を濡らした。
「はっ…ぁ、い…い…、んっ…良い…ッ」
一度解放された言葉は、堰を切ったように溢れ出る。気持ちが良いと、そう言葉にする度に快感が増していくようで、いつの間にかフレデリックは追い上げられた。辰巳の背中にしがみ付いたまま、引き締まった腹の上に白濁を吐き出す。幾度となく脈動を繰り返し、フレデリックが熱を吐き出し切るまで辰巳は動きを止めていた。
息が整うまで髪を撫でられて、フレデリックは快感の余韻に浸る。いつもとはまったく違う行為のように感じるそれは、とても気持ちが良かった。
「っぅ…は、あっ、ぁ…っ」
「もうちょっと…付き合え」
言いながら辰巳が腰を引いて、ずるりと襞ごとめくり上げるようにナカの雄芯が引き出される。ただそれだけでフレデリックは中心にまた熱が集中するのを感じた。体力も性欲も有り余っている躰が恨めしい。
二人の引き締まった腹の間で存在を主張するそれに、辰巳が満足気に笑う。
「もうちょっとじゃ満足できなそうだな?」
「ぅ…、僕ばっかりじゃ嫌だ…」
「ばぁか。十分…俺も気持ち良いから安心しろ」
ぐいと最奥を抉る雄芯は、辰巳の言う通り普段より質量がある気がする。そう、意識してしまったらもう駄目だった。元より自分の躰を良く知るフレデリックにとって、意識を向ける行為はそこから快感を拾い上げるのと同義だった。そうでなくとも過剰気味な反応を示している今はただの自殺行為でしかない。
埋められた雄芯に絡みつく媚肉の動きさえも認識してしまって浅ましさに羞恥が込み上げる。
「あっ…ぁ、あぁ…嫌…違っ、ぁぅ…んんっ」
「ああ? 嫌も違うもねぇだろ…もっと欲しがれよ」
ここと同じように。と、そう言って敏感な部分を押し上げられて、フレデリックは喉を仰け反らせた。何も考えられなくなる。瘧にかかったように震える躰をとめることが出来なかった。
内側から強烈な快感がせり上がって、雄芯を離すまいと締め付ける。吐精とは比べ物にならない気持ち良さにフレデリックは飲み込まれた。
「あぁああッ、アッ、ナカ…がっ、あぁッ」
「ッ…お前それ以上締めんなっ」
「ん、あッ、…アッ、ああぁッ」
「っぅ、――…!!」
どろりと最奥に吐き出される体液が気持ち良い。もっと…と、そう強請るように襞が蠢いていた。
「んっ…はッ、…もっと…奥まで犯して…ッ!」
「ったく、せっかく優しくしてやろうと思ったのに煽んじゃねぇよ阿呆」
一度吐き出したくらいで萎える筈もない辰巳の雄芯が最奥を抉る。その途方もない快感にフレデリックは涙を流した。浅ましい躰ごと愛されるのは、酷く心地が良くて。
「はっ…あっ、辰巳ッ…僕を全部愛して!」
「猫でも豹でもどっちでも構わねぇから後ろ向けおら。犯してやる」
ナカに穿っていた雄芯を引き抜かれ、辰巳の手でひっくり返される。腰を引き上げられると同時に再び貫かれて、フレデリックはその背を撓らせた。
「ああっ、あッ、良いッ…もっと…っ」
抜け落ちそうな程引いては最奥を容赦なく突き上げられる。堪らなく気持ち良くて、フレデリックは自らの屹立に指を絡めた。だが。
「誰が自分で触れっつったよ? 勝手な事してんじゃねぇ」
だらだらと涎を垂らす屹立から指を引き剥がされ、腕を後ろに引かれる。同時にナカの気持ちのいい場所を力いっぱい抉られて、フレデリックの雄芯は白濁を吐き出した。それでもとまらない抽送に視界が霞む。
「うあッ、あっ、また…っ、イ、――…ッ!」
「とめさせねぇよ。何度でもイけ」
フレデリックは、過敏になった躰をひたすら揺さぶられ続けた。涙を流し、もう吐き出せないと懇願するまで。
◇ ◆ ◇
フレデリックの誕生日を翌日に控えたその日、辰巳は珍しくひとりで船内の通路を歩いていた。フレデリックは唐突に現れたマイケルと部屋で話をしている。
先日ウエディングバンドをオーダーしたショップで仕上がった品を受け取ってきた。ショップバッグを断り、受け取った小さな小箱は辰巳の上着のポケットに無造作に落とし込まれている。
甘いものが好きなフレデリックのために、辰巳はケーキもオーダーしていた。ルームサービスで届けてもらう予定ではあったが、前日に確認に来て欲しいと言われている。待ち合わせのカフェでパティシエに幾つか見せられたデザインの中から、シンプルなものを選び出して頼んだのが今しがたの事だ。
これといって他にするべき事もなく辰巳が用事を済ませて部屋へ戻ると、ちょうどマイケルが出てきたところだった。通路で挨拶を交わす。表情の硬いマイケルにしては、今日はなんだか愉しそうに見える。
「何か良い事でもあったのか?」
『何もないが』
「はぁん? お前隠し事下手だって言われねぇか?」
『言われた事は一度もない』
むしろ普段はクールフェイスで通っているマイケルだ。それは、機微に敏感な辰巳にしか分からないような違いだった。制服姿のマイケルをそう長く引き止めるのも悪いかと、まあいいやと辰巳は早々に話を切り上げて部屋へと入る。
リビングへと入ればフレデリックの穏やかな声が辰巳を出迎えた。
「お帰り、辰巳」
「ああ」
返事をしながらポケットから抜き出した小箱を辰巳はテーブルの上に置いた。フレデリックが嬉しそうに微笑む。
「迷わなかったかい?」
「ガキじゃあるまいし迷わねぇよ」
と、言いつつ、前回のクルーズで船内で迷子になった経験のある辰巳の表情は渋い。
迷子というか、目的地に辿り着くのにかなりの時間を要してしまっていた。右舷前方の施設へ行こうとして後方に出てしまい、そこから前方に向う通路は、層を移さなければならず、えらく遠回りをしたのだ。
辿り着けないという事はないが、あちこち遠回りをしなければ辿り着けないのは迷子と然程変わりがないと、辰巳自身も思う。
「さすがにお前ほど最短で移動は出来ねぇけどな」
「船室さえ間違える人も居るから安心して。キミは十分優秀だよ辰巳」
クスクスと笑いながら、フレデリックは辰巳の前にコーヒーを差し出した。フレデリックの言う通り、『Queen of the Seas』の規模は小さな街と変わらない。挙句船上という事で、場所によっては通路が入り組んでいたり、抜けられない場所もあるのだ。まして辰巳はクルーしか入らないような場所にまで足を踏み入れている。
ソファに座り、コーヒーを一口啜ってカップをテーブルに戻した辰巳の額にフレデリックが口付けた。
「キミがいない時間は…やっぱり寂しい」
「マイクがいただろぅが」
「比べるものじゃない」
辰巳の左肩に寄り掛かり、キミじゃないと意味がない…と、そう言ってフレデリックは安心したように微笑んだ。
「明日がとても楽しみだな」
「阿呆か。今日も始まったばかりだろうが」
「だってそわそわしてしまうよ」
嬉しそうに笑うフレデリックは、誕生日を辰巳と過ごせる日が来るなどとは思ってもいなかった。というより、フレデリックもまた、誕生日など変わり映えのない毎日の中の一日に過ぎなかったのである。
心の変化というのは、とても大きいものだと、そう思う。
辰巳の誕生日に関して言うのなら、出会って数年目までのフレデリックは、手帳に記された辰巳の誕生日に形式的なメールを送るだけだった。それがいつの間にか手帳を確認しなくとも良くなって、言葉でお祝いを言いたくなったのが三年前の事である。
一年前には一緒にいられない事がとても悲しくてどうしようもなかった。
「しかしまぁ…考えてみると年取ったな」
三十九だぜ? と、そう言って笑う辰巳の顔は、だがしかし出会った頃と殆どと言っていい程に変わりがない。フレデリックも辰巳も、十二年前から落ち着いていた。辰巳の口調を除いては。
「辰巳は出会った時から老け顔だったからあまり変わらないね」
「うるせぇな。喧嘩売ってんのかお前」
「とんでもない。あの頃から大人の魅力があったっていう意味だよ」
「堂々と老け顔とか言いやがって取り繕っても遅ぇんだよタコ」
肩に乗った金色の頭を抱えるようにして首を絞める。三十九と、そう言った割に戯れ合い方が子供っぽいが、実際のところは本気で首を締め落とす勢いなのがこの二人の恐ろしいところだ。
さすがにソファの上で逃げ場もないフレデリックが、辰巳の膝をタップした。にやりと、辰巳が口角を上げる。
「逃げらんねぇとか、お前の方が年取ったんじゃねぇのか?」
首に回していた腕を解きながら辰巳が言えば、フレデリックがじろりと睨んだ。辰巳はおっさん扱いされてもなんとも思わないが、フレデリックは違う。おっさんなどと言われるような身なりも仕草もしていないのだ。
ゆらりと、フレデリックが立ち上がる。無造作に辰巳の腕を掴んで引き上げると、フレデリックは寝室へとその身を引き摺って行った。
いつのもように腕を振って放り投げるかと思いきや、胸ぐらを掴んで投げ飛ばされる辰巳である。
「ッ!!?」
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