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第2話

「お疲れ様でした、お先に失礼します」 バイト先に挨拶をし、裏口から出る。そのまま駅に向かって歩き、帰宅ラッシュの過ぎた電車に乗るが、車内はあいにくとまだ混んでいる。想像以上の混み具合にちょっと憂鬱になりつつ、座れないのでつり革を掴んで立つ。どうせ移動なんて五駅分だ、すぐに降りられる。 「ただいま…」 降りる駅に着いたころにはだいぶ空いていた電車から降り、徒歩十五分ほどで着いたアパートに足を踏み入れた。誰も返事をすることはないとわかっていても、声をかけてしまう。それが後で虚しくなるのだと、理解していても。 「寂しい、な」 今日も見かけた小さなお子さんを連れた家族連れのお客様。この大学一年にもなって、ずるいと思ってしまった。僕の両親は幼いころに離婚し、母に置いて行かれたことによって必然的に父に引き取られることになった。しかし父は母に似ている僕が嫌なのはわかっていた。すぐに再婚した父と新しくできた継母。その継母は僕が父の前妻に似ていることが気に食わないと、後からできた異母弟との扱いに差があったほど嫌われていた。父は機嫌が悪いと僕に陰で暴力を振るような、怖い人になってしまった。 もう、ずいぶんと抱きしめられた記憶がない。大学に入ってもう一年が経とうとしているのに、先輩どころか友人さえもできなかった僕は、いつも一人ぼっちで学校生活を過ごしていた。奨学金と自分のアルバイト代で生活をしているから遊ぶ時間もあまりとれない。勉強とアルバイトだけが僕の生活を彩っていた。 「明日も、学校だ」 何か独り言を喋らなければ、先生以外で話す相手もいない。家族なんて連絡することもないのだから本当に一日話さなくなってしまう。最近の癖は独り言を言うことだ。今頃父と継母と異母弟は温かな家庭で過ごしているのだろう、笑顔の溢れる家で。 僕だけが、爪はじきだ。僕だけが、そこに存在を許されていない。

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