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第3話
彩吏side
ある日、僕の目は色を写さなくなった…。医者に見てもらったがストレスから来ているのだろうと言われただけだった…
ストレスになっているのはおそらく『絵を描く』事で、美大生の僕にはどうしようも出来ない。絵を描かないという選択肢は僕の生きる意味を奪われるようなものだった…。
絵を描くことを苦痛だと思ったことはない。僕は、自分の描きたいものを描いてきた。今までもこれからも……きっと変わらず描きたいものを描くだろう。
「……」
「…あの、そこどいてもらえます?」
「……。この絵、…君が描いたの?」
「そうですけど…」
「…………美しくないね……。こんなのは、……絵と呼ぶには、悲しすぎる……」
それは僕の目が写したもの。優秀賞を取り評価された絵。ただ、この絵には "美しさしか" 無かった…。悩みながら描いているのか、線は所々揺れて、歪み。失敗しても直せるようにと思って塗ったのか。色合いは薄い。
…その薄さが、憂鬱さを表して美しいと評されたみたいだが、僕は気に食わなかった。
「初対面ですよね。何か私は貴方の気に触ることをしたのでしょうか」
「………この絵が、……嫌いだ。……こんなの、……何も美しくない……。悩みだらけの絵は、……見ていて不快だ」
「………悩みなんかありませんよ」
「この花は、何色⁇」
「…え?」
「僕は色が見えない。…この花は……、何色?」
「……桃色」
「…………それは嘘だ。……この花は青だろ?」
そう言えば、彼は驚いたように目を見開いた。色が見えないと言ったから、当てられてびっくりしたのだろう…。
青だと思ったのは直感と、桃色であるならば、黒く見えているところが "濃すぎる" からだ。色すらも悲しみに溢れていて、何がいいのか。"誰か助けて" と、叫ぶ声に聞こえて、心が痛いだけだ
「見えないから、…嘘を?……僕は油絵専攻だけど、………得意分野は、…水彩だ………。馬鹿にしないでくれ。見えなくても、僕には、………視えてるんだ。色が………」
「……っ」
「………またね。……君とは、…縁がありそだから」
「………」
教室から出てすぐ、彼が壁を殴る音が廊下に響いたのだった…。手は、大事にしなきゃダメだろ。僕たちには大事なものなんだから…
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