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第8話
鈴side
珍しくイライラしてる想に声をかける。イライラしすぎて上手く絵を描けないらしい…。何枚も書き殴ったデッサンが床に散らばっている…。想はイライラすると何枚も絵を描き殴り気持ちを整理する癖がある。高校の時からそうだったが、今回はかなり荒れているらしい。
恐らく40枚は超えている…。今日は二限目だけだと言っていたはずだが、もう五限目が終わっている。いつから描いていたのか……。
「な〜に、イライラしてんの〜?」
「うっせぇ…」
「あらら〜⁇ 本当にご機嫌斜めー?」
ちょっと揶揄ったような口調。イライラした想に真剣な声で話しかけると飛び火が来るからだ。集中力が切れたらしい。振り返って声をかけてくる。
「何の用だよ」
用はなかった。用は無かったけれど、声をかけた。そうでもしないと描くのをやめないし紙が勿体ない…。集めるには面倒な量が…。とりあえず、見ないフリ。
「誰に何言われたー?」
「知らねぇ…。変な奴に、絵を……。いや、心の中を暴かれて気分が悪りぃ」
「んー?どんな子ー?」
「すげー、変!………浮いてた…」
変な子…クラス……。いや、学校の中で一人浮いている子がいたな…。専攻は油絵…。昔水彩画で沢山賞を取っていて一度は名前を聞いた事がある。彼の描く水彩はとても繊細で美しく好きだったが…。ふっといつの間にか消えてしまって悲しかったのを覚えている。
「なんとなく分かったかも。会いたい?」
「嗚呼…」
「あー、やーめたー。描けねぇーし」
「おつかれー。なら俺も帰るかな〜。久しぶり一緒に食べに行かない?」
「…行く。奢れよ」
「えー?俺の奢りなのー?まぁ、いいけど」
そんな会話をしながら帰路についた。下らないことを喋りながら歩く帰り道。話しながらどうやって彼に話しかけようかと考える。憧れていた人と話せるかも知れないという事実に心が浮かれているようだった…。想の話が上手く頭に入ってこないから……。
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