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5 週末

 股間をおさえて慌てる剛毅は、ただただ「すみません」と繰り返す。靖幸はそんな剛毅の姿を見て嫌悪感丸出しで溜息を吐いた。 「男に怪我の手当てしてもらって勃たせてる意味がわからない。そこ、右奥のドアがトイレだからどうぞ。恥ずかしいそれ、鎮めてくれば?」  救急箱を片付けながら、靖幸は剛毅の姿を見ることもせずに冷たく吐き捨てるようにそう言った。 「いや……あ、はい。トイレお借りします……」  おずおずと剛毅は言われるままにトイレに篭る。しばらくして出てくると、申し訳なさそうな顔をして帰っていった。  次の日、靖幸は学園内で剛毅を見かけた。痛そうにしていた足が気になったのもあり、なんとなしに声をかけただけ。でも剛毅は靖幸の顔を見るなり視線を逸らした。 「足……大丈夫か?」 「はい。お気になさらず」  いつもの爽やかな笑顔は消え、早く靖幸から離れたいのか無愛想に会釈をするとさっさと行ってしまった。 「………… 」  剛毅のそんな態度に何故だか靖幸は苛々とした。 「何なんだ」  外に出ていつもの東屋へ向かう。風を感じ歩きながらグラウンドの方へ視線を向けると、ちょうど始業のチャイムが鳴った。今日も体育の授業か、ジャージを着た剛毅の姿と生徒たち。やっぱりまだ足が痛むらしく、今日の剛毅はあまりその場から動かずに指導をしているようだった。 「……本当に、誰なんだ?」  靖幸は昨晩からずっと引っかかっていた、剛毅に対するぼんやりとした記憶を辿っている。  絶対に会ったことがあるはずなんだ──  遠目でジッと見つめていると不意に剛毅がこちらを振り返る。遠いから表情までは読み取れないものの、あからさまに顔を背けられたように感じた靖幸は更に苛々を募らせた。 「あら! どうしちゃったの? 週末に来るなんて!……靖幸ちゃんこっちどうぞ」  何となく苛々がおさまらなかった靖幸は、仕事帰りにマアサの店に足を運ぶ。週末は店が混んでいそうだから今までは避けていた。でも、苛々する時や疲れた時は美味いものを食べるのがいいと常に思っている靖幸は、どうしてもこんな気分のまま真っ直ぐ家に帰る気にはならなかった。  突然の来店に、マスターは何故か慌てていつものカウンターの端の席から客を退かし、靖幸に譲る。 「ごめんなさいね、ちょっと混んでて騒がしいわよ」  マスターが申し訳なさそうに言うが、店が繁盛するのはいい事なんだし謝られる筋合いはないと靖幸は笑った。 「もう……そんな顔して笑わないでよ。靖幸ちゃん滅多に笑わないんだからドキッとしちゃうじゃない」  そう言ってマスターは照れながらバタバタとキッチンに入り、靖幸に出す料理の指示をする。  確かにマスターの言う通り、今日はいつも来る平日と違って客も多かった。少々騒がしくも感じるものの、言うほど靖幸は気にならなかった。  ふと視線を感じ横を見ると、先程マスターに靖幸の座るカウンター席から追いやられた客と目が合った。 「……?」  にっこりと微笑まれ会釈をされる。  普通なら知らない人物でも会釈をされれば何となく自分も返すものだが、靖幸はそんな気遣いは持ち合わせてはいないのでそのまま視線を戻し何事もなかったかのように酒を口に運んだ。 「こんばんは。この店は初めて? 見かけない顔だよね」  いつの間にか隣に座った会釈の男が声をかけてきた。思いの外椅子が近く、不快に思って体を離すとその男は更にこちらに体を寄せる。 「そんな怖がらないでよ。一杯奢るよ? 何がいい?」 「………… 」  別に怖がってるわけじゃない。初対面で馴れ馴れしいのは男女共に好きではないだけだった。  見たところ自分よりも随分と歳上でどうにも馴れ馴れしく接してくるこの人物に、靖幸は嫌悪感しか湧いてこなかった。 「結構です」

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