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7 常連

「剛君……だったよね? 久しぶり。何? この美人と知り合いなんだ。ん? うん……うん、わかった……ん、いいよ」  何やら剛毅は隣の客の耳元でコソコソと話をしている。マスターもそんな二人の様子を少し不安そうな顔をして見つめていた。 「マスター。この人……安田さんの分は俺にツケといて」 「え? 剛ちゃん? ちょっと? もう行くの?」  剛毅は立ち上がり一度も靖幸の顔を見ることもなく、さっきの男に肩を抱かれて店から出て行った。  何となく気まずい空気が靖幸とマスターの間に流れる。 「なあ、あいつら知り合いなのか?」  先に口を開いたのは靖幸だった。 「あ……うん、知り合い……よね。うん」  何やら歯切れの悪い言い方をするマスターが気に入らなかった。 「あの男、俺のことを口説いていたようにも思えたんだけど……何なんだ? 週末はああいうのが多いのか?」  靖幸は遠慮なく思ったことを聞いてみた。不愉快だったのもあるし、何よりこのマスターの言い方も気に入らない。自分だけわかっていないというのも靖幸にとっては面白くなかった。 「もう……靖幸ちゃんわかってないみたいだから言っちゃうけど、この店ね、ゲイバーなのよ。平日は比較的静かだけど……週末は相手を探しに来る人も少なくない。あたしの店はそういう人のための憩いの場所でもあるのよ。てかあたし見てて何も気づかなかった?」  マスターは鈍感な靖幸に今まで言わないでいたのは、靖幸の事だからこういう店だということがわかったら来なくなるかもしれないと思ったから。恩もあるし、男前で好みでもあった靖幸にはこのままずっと店に来て欲しかったから敢えて言わないでいたのだ。気づかないなら気づかないでそれでいい……と。 「ほぉ……ん? てことはあいつは?」 「剛ちゃん? あの子もうちの常連よ。週末しか来ないから靖幸ちゃんとは今まで会ったことなかったわね」  常連ということは、そうか。  そういうことか──  靖幸はマスターの言葉を聞き、やっと胸のモヤモヤが晴れた気がした。 「俺を口説いていたように見えたあいつもそうなの?」  やけに馴れ馴れしいスキンシップや、自分を見る嫌な目つきを少し思い出し、また苛つく。 「そうよ。靖幸ちゃんみたいなのは性格はともかく、どっちにもモテるのよ。もう見た目が……あなた平日しか来なかったから油断したわ。あ! ごめんなさい。そんな事言われちゃ不愉快よね」  不愉快……というか、男女ともに言い寄られる事は何度かあったし、誰がどんな恋愛をしようと自分には関係がなく、相手が同性だろうが異性だろうがどうでもいい。先ほどからマスターの言動が自分に気を使いすぎているように思えて靖幸は少し気を回した。 「マスターの気にするような偏見は俺はないから大丈夫だよ。モテるなんて光栄だな……」  心にもない事をサラッと言って、先程出て行った剛毅の事を考える。マスターはそんな靖幸の言葉に気を良くして、聞いてもいない事をベラベラと話し始めた。

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