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11 確信
「さっきの安田さん、あんまり評判よくないのよ……以前も剛ちゃんあの人と出掛けた事あったと思うのよね。その時、散々な目にあったって……確か剛ちゃんがあたしに教えてくれたんじゃなかったかしら」
マスターが深刻な顔でぽつりと呟く。
「………… 」
出掛けるって……
合意の上での行為なら問題ない。自分には関係のないことだ。でも……と靖幸の頭に小さな疑問が浮かんだ。
「そういうのってお互い好きな奴同士がするもんじゃないのか?」
「……え」
ポカンとしているマスターに、聞こえなったのかともう一度聞こうとした途端、マスターは顔を逸らして吹き出した。
「ちょっと! 靖幸ちゃんギャップ! そんな可愛らしい事言うとは思わなかったわ。やだダメ……冷めた人間かと思ってたのに凄いキュート!……靖幸ちゃん可愛い! 無理! やっぱり好きっ!」
いきなり一人で興奮して大騒ぎしているマスターを靖幸が冷めた目で見つめていると、我に返ったマスターが苦笑いをし息を整えまた話し出した。
「ゴメンなさい……ちょっと取り乱しちゃった。えっと、ここに来て相手を探すような奴はね、ちょっと顔や体がタイプでセックス出来ればそれでいいって感じよ。本当に気が合ってお付き合いに発展出来ればそれに越した事はないけど……まあ殆どは体目的なんじゃないの? あたしはよっぽどじゃなければお客さん同士の事には干渉しないけど」
マスターの話を聞いて靖幸は首を傾げた。
剛毅はあの安田という男と出て行った。嫌々でもなさそうだった。でも以前痛い目にあってるのに?
何やってんだ?
剛毅の行動に納得がいかず、モヤモヤが募る。そして他人に興味の湧かない自分がこの間から剛毅という男に対してだけ色々と考えてしまう事が不思議でならなかった。
「……面白くないな」
「へ?」
先程剛毅と安田が店から出て行った時に、マスターが剛毅もこの店の常連だと言った。そうかゲイだったのか……とわかった瞬間に、靖幸の頭に思い浮かんだのは中学時代の記憶だった。
蘇った微かな記憶でもこれまでのモヤモヤが晴れた気がしたのに、それでもまだ腑に落ちないところが残り、靖幸は新たなモヤモヤにすっきりしない。
「一度出て行った奴はもう店には戻らない?」
靖幸の問いに、マスターは頷く。
「前回は剛ちゃん怪我させられたって言って店に戻って来たけど、今日はもう戻らないんじゃない? 殆どのお客さんは特別何かない限り戻らないわよ」
だよな……週明けに学園で会えるかな。そう思いながら「そっか」と返事をする。
どうしても靖幸は剛毅と会って確認したい事があった。
「なあ、マスターはあいつの出身、何処か知ってる?」
「………… 」
マスターは靖幸の問いに答えずにジッと見つめる。
「おい、聞いてんのか?」
「あ、剛ちゃん? 知らないわよ……どうしちゃったの? 靖幸ちゃん随分と剛ちゃんに興味津々じゃない。珍しい……」
靖幸におかわりを出しながらマスターはニヤっと笑った。
「でもこの辺の出身ではないみたいよ」
「ふぅん……そう」
靖幸はおかわりには手を付けず、無造作にカウンターにお金を置くと「ご馳走様」とひと言呟き店から出た。
「やっぱりだ……」
何かを確信した靖幸は一人笑みを浮かべ部屋へ帰った。
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