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13 傷痕
緊張しながら剛毅は軽く扉をノックする。
しばらくしてドアを開けて顔を出したのは靖幸ではなくもっと歳のいった別の男だった。
「あん? どうした? 何か用かい?」
「あ……あの、えっと……その」
剛毅を見るとその男は気さくに話す。てっきり靖幸が出てくるのかと思っていた剛毅は拍子抜けして思わずしどろもどろになってしまった。
「あ、ヒロさんすみません、俺が来て貰ったんだ。このまま用事済ませて帰るから。見回り行って大丈夫ですよ」
靖幸が笑顔を作って他人と話すのを少し不思議な気持ちで見つめる。ヒロさんと呼ばれた男は剛毅の横をすり抜け見回りに出て行った。
「……本当に来た」
靖幸はボソッとそう呟き、剛毅を事務室に招き入れる。中に入るとすかさず靖幸は鍵をかけた。
「話って何ですか?」
何となく見透かされるのが嫌で、顔を見ず剛毅は話しかけた。
「まあ、いいからそこに座って」
奥に給湯室があるようで、仄かにコーヒーの匂いが漂ってくる。剛毅は緊張しながら言われた通りに椅子に座った。
「今泉剛毅……どうしちゃったの? 昔と雰囲気だいぶ違うようだけど……」
マグカップを一つだけ手に持ち、ゆっくりと近づいてくる靖幸の言葉に剛毅は固まる。
「なんの話……ですか?」
心臓を鷲掴みにされたように苦しくなった。動揺を必死に隠し、剛毅は靖幸の顔を見つめた。
剛毅の真横の机にコトリと音を立てマグカップを置く。置きながら靖幸はからかうようにして剛毅の耳元でボソッと話した。
「俺の知ってる奴に似てるんだよね。人違いかな?」
「………… 」
耳にかかる靖幸の吐息にゾクリとする。
大丈夫……
きっとカマをかけてるだけだ。
反応を見て楽しんでいる風にも見える靖幸の顔を、剛毅は軽く睨んだ。
「何を言ってるのかわからないんだけど。人違いじゃないですか? 話ってそれだけですか?」
靖幸から逃げるように体を捩り、平静を装う。
「ううん、違う。こないだあの男と出かけて、怪我しなかったかなって気になったからさ」
「………… 」
靖幸が自分のことを気にかけ心配をしてくれていた。剛毅はそれが嬉しくて思わず頬が緩み小さく首を振った。
「何のこと? 俺が誰と出かけてもあなたには関係ないし……怪我? 何で安田さんと出かけただけで俺が怪我をすると?」
あまりこの事には触れてほしくなく、剛毅はもうここから出ようと立ち上がった。
「そろそろ行きますね。お気遣いありがとうござい…… 」
突然靖幸にハイネックの首元に手を入れられ引っ張られ、剛毅は思わず体勢を崩しよろめいた。
「なぁ、何これ? 今の時期ハイネックなんか着て暑いだろ? 変だなって思ったんだよ。何でこんな傷ついてんの? これ隠すためにこんなの着てんだろ?」
「ちょっ……首伸びるから引っ張らないで。んっ! ちょっと!……やめっ!」
剛毅の首に残る擦れた痕。革の首輪が擦れた皮膚が赤くなっていた。おまけに一部は擦り切れている。その傷痕が目立たなくなるまで、とハイネックで隠していたのだが、靖幸はその違和感を見逃さずに剛毅を押さえつけ乱暴にそれを脱がせた。
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