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16 剛毅の過去

 夜道を歩きながら、剛毅は先程までの出来事を思い返していた。  何であんなことになったんだ?  安田と一緒にいたことを心配してくれたのはわかる。でもきっと呼び出されたのはそんなことが理由ではないと感じた。 『今泉剛毅……どうしちゃったの? 昔と雰囲気だいぶ違うようだけど……』  靖幸にフルネームで名前を呼ばれ、雰囲気が違うと意味ありげに言われた瞬間、一気に昔のことを思い出し体が強張った。何の話か、と誤魔化したものの、知っている奴に似てるんだと言う靖幸に動揺を隠せなかった。  どこまで気がついてるのだろうか。  どこで思い出したのだろうか。  それを確かめたくて俺を呼んだのか? そう思えば思う程、どきどきと胸が騒ついた。  剛毅は学園で初めて靖幸とすれ違った時には気付いていた。でも靖幸の方は剛毅に気がついた様子はなかったのでそのまま知らないふりをした。  新堂君はあんな事をするような人じゃなかった筈なのに……  思い返してみるも、やっぱり雰囲気が変わっているのは靖幸の方だとそう思った。  あの時「やれ」と言われ、拒めなかった。威圧的で挑発的な視線にどうしても逆らえなかった。昔の記憶が呼び起こされ、悔しくて嫌な筈なのに逆らえなかった。  剛毅はアパートに着き、鍵を開ける。真っ暗な部屋。ここに一人住み始めて何年になるだろう。電気をつけ、剛毅はドスンとベッドに横たわった。  そもそも靖幸は何でこんなところにいるんだ? あの頃の繋がりを全て絶ちたくてここに来たというのに……目を瞑り、過去の記憶を遡った。  剛毅はこの辺りの出身ではなかった──  中学の頃、親の転勤に伴い隣県までやって来たのだった。そして高校からは更に県を跨いだこの街でずっと一人暮らしをしている。高校はあえて自宅から遠い高校を選び、出来るだけ中学時代の知人と会わないよう警戒した。  中学の頃、正確には小学校高学年の頃から、剛毅は酷い虐めにあっていた。  今とは逆に、気が小さく声も小さい。消極的で大人しい子どもだった剛毅は常にからかいの対象だった。言葉でのからかいに始まり、物が無くなる、物が壊れる、更には暴力……と、年齢が上がるにつれてエスカレートしていった。  中学に上がれば少しは環境が変わるだろうと期待したけど、入学してみたらそれは甘いと痛感する。また新たな虐めが始まった。なんでいつも自分がこんな目に遭うのか考えもしたけど、理不尽なこの状況に理由なんて存在しない。どんなに酷い事をされても気の弱かった剛毅は反発する事もなかった。抵抗すれば倍になって返ってくるのがわかっていたからこそ、怖くて抵抗など出来なかった。  エスカレートしていく虐めに無抵抗な剛毅。ある時剛毅がゲイだと誰かが言い出し、それからは性的な嫌がらせも加わった。実際その時には剛毅は自分でもゲイだと自覚があったから、尚更否定も出来ず、されるがまま辛い日々を過ごしていた。  気の弱さから、親や教師にも相談できず、それでも我が子の異変に気が付いた母親が学校に相談するも、虐めが解決する事はなかった。  剛毅には友人がいない。  助けてくれるクラスメイトは皆無。  常にひとりぼっち。  それが何よりも辛く、寂しく思っていた。でも同じクラスに剛毅と同じく常にひとりでいる人物がいた。  それが靖幸だった。

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