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18 期待
あの一件があってからというもの、剛毅は靖幸からの視線に戸惑っていた。
靖幸が午前中に学園内の巡回をしているのも以前から把握していた。園内が終わると外へ出てきてまた巡回をしていく。週に二三度自分が受け持つ体育の授業と靖幸の休憩の時間が重なるらしく、外れの東屋でぼんやりしている靖幸の姿をよく見かけていた。
今までは何とも思わなかったのに、ここのところどうにも見られているようで落ち着かない。かと言って靖幸の方を見てみても特にこちらを見ているわけではなく、自分が自意識過剰なだけなのかもと思い知らされ恥ずかしくなった。
『人違いじゃないですか?』
そうあの時は誤魔化したくせに、自分のことを意識してほしいなんて図々しい……でもあの警備室での出来事は二人だけの秘密のようでちょっとだけドキドキした。
数日経って、また剛毅は廊下で靖幸に呼び止められた──
「今日の放課後の予定は?」
唐突にそう聞かれ、剛毅は「いえ、特には」と小さく答える。
「仕事終わって帰る時にでもまた警備室に寄ってくれ」
無表情でそう言うと、靖幸はすぐに行ってしまった。何の用だろうか? と思いながらも、あの時の密事が頭を過ぎり下腹部がキュッとした。
「俺は何を期待してるんだ…… 」
剛毅は自分の厭らしさに恥ずかしくなり顔が火照った。それでも嬉しい反面、忘れたくて忘れたくて、切り離して捨ててきた過去の自分が靖幸に見つめられれば見つめられるほど呼び起こされるのも事実だった。
仕事を終わらせ、警備室へ続く廊下をゆっくりと進む。靖幸は何のつもりで自分に構うのだろう。緊張しながら剛毅はドアをノックし部屋に入る。部屋の中には靖幸がひとりいるだけだった。
また先日のようにコーヒーを淹れてくれた。
「……脱げ」
「え?」
冷たく見下す視線にドキリとする。唐突すぎて戸惑いが隠せない。
「早く脱げよ」
「………… 」
強い口調で言われると、どうにも抗えずに従ってしまうのはきっと中学の時の虐めがあったから。そして嫌な筈なのに、虐げられて酷くされる事に快感を覚えてしまうようになったのはもう少し後のこと……
剛毅はジッと自分を見つめてくる靖幸から目をそらせずにいた。顔が紅潮していくのがわかる。脱げと言われただけでこんなにも興奮している自分が恥ずかしく、申し訳ない気持ちになりながらシャツのボタンに手をかける。
いつもはTシャツやポロシャツで学園内の服装のまま帰宅するけど、今日のこの日は週末だったため、マスターの店に立ち寄るつもりで小綺麗な私服に着替えていた。
一つ一つボタンを外し、肌が露わになるにつれ息が上がる。今日は何をされるのだろうか……考えると下腹部がムズムズしてきてそれだけで心地よかった。
でも半分までボタンを外したところで靖幸は「もういい」と剛毅の行動をやめさせた。
「え……?」
「もういい。傷、殆ど治ってるな。よかったな」
靖幸はあの時の剛毅の体についた傷を確認したかっただけなのだと気付き、既に勃起しかけている自分に戸惑ってしまった。
「な……何もしないの?」
思わず出た言葉。途端に靖幸は不快そうな顔をする。
「まだ傷があるようなら薬を塗ってやろうと思ったんだけど、もう傷も癒えてるんだ。何もすることないだろ? 何を期待してるんだ?」
「………… 」
靖幸の蔑むような視線に、自分の頭の中を覗かれているような気持ちになる。今度はどんないやらしいことをされるのかと期待していた自分が恥ずかしい。
慌ててボタンを留め直し「気にかけてくれてありがとう」とだけ言って剛毅は逃げるようにして部屋から出た。
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