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19 靖幸の興味

 安田に痛めつけられたであろう剛毅の傷だらけの体。絞められた跡が残る首筋、服の下にも擦り傷や鬱血が多数あった。  剛毅と関わるようになってから気づいたことがある。  思い違いでなければ、剛毅は自分と同じ年齢、中学時代共に過ごしたクラスメイトだ。それでも現在の剛毅の姿が、靖幸が知る剛毅の姿とはかけ離れていたため確信が持てないでいた。  わざわざ声をかけ警備室に呼び出し、強引に服を脱がせ、傷を見た。傷を見てやっぱり……と確信をした。  あの時見た光景、あの時と同じような体の痣や傷。一気に記憶が蘇った。  靖幸は自分でも何をしてるのか、この時はよくわからなかった。カマをかけても自分のことは知らないとシラを切られ、剛毅の態度にイラついていたのも事実だった。あの時のことを再現してやろうと思ったのかはわからない。不思議と湧き上がってきた加虐心に靖幸は逆らえなかった。  大人しくいつも言いなり──  中学時代、虐められ、暴力を振るわれ、暴行をされても文句も言わずジッと耐え続ける剛毅の姿に正直嫌悪を抱いていた。  嫌なら抵抗すればいいのにそれもせず、大人しく黙っているだけの剛毅。背中を丸め、人と目を合わせようとしない。そんな普段の佇まいからして「蹴り飛ばしてください」と言っているようなものだった。  自分には関係のないこと……  全く周りのことに興味がなかった靖幸にとって、クラスで虐めがあろうと無かろうとどうでもいいことだった。  でも一度だけ剛毅に助けを求められたことがあった。  汚いマットの上で下半身を露わにし、顔を紅潮させ勃起した自身のペニスを緩々と扱きながら「助けて……」と確かに言った。でもその姿は到底助けてもらいたいようには見えず、理解できずに無視をした。何か嫌味のひとつでも言ったような気もするけどよく覚えていない。確か係の仕事か何かで急いでいたのもあり、その場から早く立ち去りたかったんだと思う。  でも用事を済ませ、また倉庫に戻った時に見た光景ははっきりと記憶に残っている。体中傷だらけになり、体液やら何やらわからないものをこびり付かせ、泣きながら汚い雑巾で狂ったように自分の体を擦り続ける剛毅の姿。先程見た恍惚な表情で自慰をする剛毅とは程遠い姿に、思わず濡らしたタオルを差し出してしまった。  それは助けてやりたいとか哀れみからの行動ではなく、単純に傷だらけの部位に汚い雑巾で擦ったところで悪化させるだけだと思ったから。汚れたままの体に汚れた制服を来て帰ろうとしている様子に、バカじゃないのか? と蔑んでの行動だった。  蘇った記憶の中での剛毅の姿と現在の姿。  確かあの一件の後に剛毅は学校を転校していった。それっきり会ってはいない。靖幸自身も親の離婚をきっかけに転校し引越しをしていたから、その後のクラスの様子など知る由もなかった。  転校をし、剛毅は自分を変えようと相当な努力をして今現在のあの快活な姿になったのだと手に取るようにわかった。  地元から離れた事により、あの頃の剛毅を知る人物はもういない……だからこそ、自分のことを「知らない」とシラを切ったんだと靖幸は思った。  でも俺は知ってるよ……  シラを切られたことは面白くないけど、でもそんな剛毅に靖幸は少なからず興味を持った。

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