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23 家に来い

「それ、本当に剃刀でやったのか?」  隣に座る剛毅の頬に手を添えて靖幸が聞いた。突然伸びてきた靖幸の手の平が自分の頬に触れ、驚いた剛毅は思わず肩を竦めて半身を逸らした。 「………… 」 「本当に剃刀なのか? って聞いてる!」  驚いて黙ったままの剛毅に苛ついたのか、強い口調で靖幸は剛毅を睨んだ。慌てて剛毅は小さく頷く。剛毅はまさか靖幸に触れられるとは思わず、動揺を隠せないでいた。  黙ったままグラスに口をつけるも、切れた下唇に触り少し滲みる。舐めるようにちびりと呑んでいると、相変わらず見つめてくる靖幸にどうしても落ち着かずに視線が泳いだ。助け船を出してもらおうとマスターを見るも、いつの間にか離れたテーブル席の客の方へ行っていて楽しそうに呑んでいる。剛毅達のことなど気にしていない様子だった。  そわそわしながら剛毅は靖幸の方を向き直り、もう一度「なんですか?」と聞いた。 「また体に傷つけてるんだろ?」  小さな声で、でもはっきりとそう言われ、剛毅の頬が赤く染まる。剛毅は否定せずに素直に頷いた。 「マスター! ごちそうさま」  スッと立ち上がり、おもむろにカウンターにお金を置く靖幸を剛毅は慌てて引き止める。 「え、どうして?」  突然帰ろうとする靖幸の態度に、剛毅は気分を害してしまったのかと不安になった。 「後で俺の家に来い……」  そう呟き店を出て行く靖幸の後ろ姿をぽかんとして剛毅は見送った。 「あら? どうしたの? 靖幸ちゃん帰っちゃったの?……喧嘩でもした?」  カウンターに戻ったマスターは心配そうに剛毅に聞いた。 「いや、えっと……俺もそろそろ帰るわ。マスターごちそうさま」  グラスに残るウイスキーを一気に飲み干した剛毅は会計を済ませる。 「なによ、来たばっかじゃないの。もぅ!」  そう言って怒ったような顔をするも、マスターはもう何かを察しているのか、さっさと行きなさいと笑顔で手をヒラヒラとさせた。  何処だ?──  剛毅は以前行った靖幸のアパートへの道のりの記憶を辿りながら足早に歩く。先程出て行った靖幸にすぐに追いつけるかと思い足を進めるもなかなか追いつけずにいて、道を間違えたかと不安になった。  ドキドキする……  我ながら馬鹿なことをしてるのはわかっているんだ。  靖幸の気まぐれなのかわからないけど、やっぱり逆らうことも出来ずにこうやって少しの期待を胸に足を進める。剛毅は結局靖幸に追いつくことなくアパートまで辿り着いてしまった。  玄関ドアの前でひと呼吸してから呼び鈴を押す。 「本当にのこのこと来るんだな」  玄関ドアを開け顔を出した靖幸が鼻で笑った。 「…… 来いと言うから」  部屋に招き入れられ、剛毅はまた、以前手当てしてもらった時と同じ場所に腰を下ろした。 「見せてみろ」  ……やっぱり。この人は俺の体を気遣ってくれてこうやって構うんだ。救急箱を手に剛毅の前に座り込んだ靖幸を見てそう思った。  服の裾を持ち、恐る恐る上へと捲る。まるで医者に見せるかのように胸の上まで捲り上げると、少し冷たい靖幸の手がお腹に触りビクッと震えた。 「キスマーク、歯型……またこんなの貼って……酷いな」 「あ……ん」  乳首に貼った絆創膏を一気に剥がされる。思わず出てしまった声に剛毅の羞恥心が少し増した。

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