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26 接触
安田は一人別の店で呑んでいた──
また適当な若い子を見つけて楽しもうと周りを物色していると、ポケットの中の携帯が震えた。
「おやおや、珍しい……」
楽しげな表情を浮かべ、自分を呼び出している携帯の画面をしばらく見つめる。少し焦らすようにしてからやっと画面をタップし電話に出た。
「どうしたの? 君から電話なんて嬉しいな。俺とまた会いたくなっちゃった?」
意外な人物からの連絡に些か不審に思う。それでも安田はこの電話の主から再度連絡をもらえるとは思ってなかったので、そこは素直に喜んだ。
「うん?……わかった。すぐ近くだから俺がそっち向かうよ。うん、うん……待ってて」
そう言ってすぐに電話を切ると、そのまま安田は店を出て約束の店へと向かった。
指定された店は何度か訪れたことがある。でも安田の性質上、そこのマスターからはやや嫌われていると感じていた。おまけに今しがた安田を呼び出してきた男も、正直自分のことを嫌っているとばかり思っていた。
「二度あることは三度ある……か」
上機嫌で安田は店の扉を開ける。扉を開くなりカウンターに座る男が振り返り、安田に向かって小さく手を振った。
「マスター、ご馳走様」
もう行っちゃうの? と残念がるマスターに金を払い、サッと立ち上がると安田の元へ歩いてくる。
「じゃ、行きましょうか? 安田さん」
安田の腕を取り笑顔を見せるその男は剛毅だった。自分は嫌われているとばかり思っていた剛毅にそんな風に微笑まれた安田はちょっと嬉しかった。
「何? どうしたの? いきなりホテルでいいんだ……」
若干引っ張られるようにして歩く安田は困惑しつつ剛毅に聞いた。
「安田さんもその方がいいでしょ? もう他所で呑んでたみたいだし……」
上目遣いで顔を覗く剛毅の瞳に、ちょっと思うところもあり安田は溜め息を吐いた。
いつも利用しているホテルに着くと手慣れた感じで最高値の部屋のボタンを押し、今度は安田が剛毅を引きずるようにして部屋へ入る。そしてそのまま剛毅をベッドに突き飛ばした。
「なあ、そんな風に俺に接してくるならいいんだよな? お前、そのつもりで来てんだよな?」
ネクタイを緩めながら剛毅に馬乗りになる安田は、空いている方の手で剛毅の首を絞めた。
苦しそうに顔を歪める剛毅にキスをする風を装い下唇を噛む。
「いっ…!」
顔を逸らした剛毅の唇から血が滲み、ニヤリと笑って安田は舌でその血を舐めとった。
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