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29 安田の心境
一頻り満足すると安田は剛毅を再び抱きしめ、優しくキスをした。舌を絡めず触れるだけの軽いキス。
剛毅の肩に付いた噛み跡が視界に入る。自分が付けたその痕を見て、安田はすっとそこから視線を逸らした。
剛毅に初めて声をかけたのは、単純に剛毅が可愛いと思ったから。明るくて軽い雰囲気を醸し出しているくせに、どこか初心で気が小さそうなところが見え隠れしているように感じた。いつもなら適当に遊んでいそうなやつに声をかけるのに、この時は剛毅に興味を持って思わず声をかけてしまった。
思った通り、剛毅は経験が少なそうで何をするにもぎこちなかった。可愛い反応に気を良くし、ついいつものように乱暴に扱ってしまったら泣かれてしまった。そんな泣き顔も可愛く感じ、いつも以上に興奮したのを覚えている。結果、剛毅は気を失ってしまったので、少々やりすぎてしまったと反省をした。
もう二度と剛毅と会うことはないだろうと思っていたのに意外にも二度目はすぐにやってきた。この辺りでは見たことのない気の強そうな美人に声をかけたら、それが気に食わなかったらしく剛毅の方から誘ってきたのだった。
嫌われたとばかり思っていたから、理由はどうであれ向こうから誘ってきたのが安田は嬉しかった。前回みたいに酷くしすぎないよう、なるべく気をつけたつもりだったが、剛毅の態度に苛々もし、結局沢山の痕や傷を付けてしまった。苦痛に歪める剛毅の顔が殊更可愛く感じてしまい、もっと泣かせてみたいという欲にどうしても抗えなかった。
そして今回の誘い──
明らかに何かあるとわかっていたけど、それでも気になる男に誘われるのは嬉しいことで、積極的に接してきた剛毅に思いの外浮かれている自分に驚いた。
笑うと可愛いんだ……
気持ち良さそうな顔も、結構好きかもしれない。
安田は忘れていた恋心が蘇ってくるような擽ったい気持ちになりながら、今日は甘く抱いてやろうと心に決めた。
それなのにイライラする。
心ここに在らずな態度や、キスをすると見せる嫌そうな顔。剛毅が自分に好意を寄せていないことは始めからわかっているはずなのに、こうして体を重ねていることでその感覚を麻痺させる。だからあからさまに嫌そうな態度が伝わると、現実を突きつけられ苛々とした。そして年甲斐もなく若い剛毅に夢中になりつつあるのを認めたくない安田は、結局その日限りの相手と同じように、剛毅の体を傷つける行為に移っていった。
背後からヒクつく剛毅のアナルへ自分自身をあてがい、一気に奥へ貫く。
「うぐっ……!」
苦しそうな声をあげた剛毅の尻を思い切り平手打ちする安田は、ゾクゾクとした快感に笑みを浮かべた。ぐりぐりと奥へ押し付けるようにして律動を早めていくと剛毅の嬌声が更に上がる。激しく突かれ突っ伏して呻いている剛毅の尻に、容赦無く平手打ちを続けた。
「剛くんお尻真っ赤になって可愛い…… 今度はこっち向いて…… 」
安田は剛毅を仰向けに寝かせると自分のネクタイを取り出し、そっと目にあてがった。
「……え? 目隠し?」
「………… 」
安田は黙って剛毅の目元をネクタイで隠す。解けないように後頭部できつく縛ると、そのまま頭を抱えるようにして唇を重ねた。
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