今まではこんなに長くキスなんかしたことが無い。そもそも安田とのセックスではキスはしていない……していたとしても他のプレイの印象が強すぎて、キスをした記憶が剛毅には残っていなかった。 　特定の恋人というのをつくったことがなかった。独り寝が寂しく感じたり人肌が恋しくなった時にはマスターの店に行けば相手は見つかる。そんなふうにして寂しさを埋め始めた矢先に安田に出会った。それまでは優しく相手をしてくれた人ばかりだったので、二人きりになった時の安田の豹変ぶりに剛毅は恐怖した。 　それでも安田にコンタクトを取りこうやって体を重ねるのは、自分に興味を持ち始めている靖幸のため……靖幸にまたきっかけを与えるため。 　今までのようにキスマークや歯型、何かしらの痕を付けてくれればそれでよかった。それなのに、今回の安田の行動に意表を突かれた剛毅は戸惑いを隠せなかった。 　恋人同士のような優しい愛撫。確かめ合うような甘いキス。安田らしくない行動にじれったく感じる。だから堪らず自分から強請るようなことを言ってしまった。「煽られた」と乱暴に噛みつかれ、自分から強請っておきながらやっぱり怖くなり泣き言を言った途端、安田の目つきが変わった。乱暴に扱われ、散々叩かれ、息が上がる。快感と苦痛が押し寄せる中、ふと安田の顔を見たときに剛毅はハッとした。 　恍惚な表情を浮かべていた安田が一瞬泣いているように見えた。 　気のせいだろうか？ 　もう一度それを確かめるべく見つめたら、ネクタイで目元を隠されてしまった。 　剛毅を見つめる安田は何も言わない。 　黙ってネクタイを剛毅の頭の後ろでキュッと結ぶとそのまま抱きすくめられ、そしてまた唇にに柔らかな感触が触れた。 　キスをされたのだとわかった。 「これなら誰だかわからねえだろ？」 　ボソッと耳元で安田が囁く。その安田の声がやっぱり寂しげに聞こえ、剛毅は自然と絡みつく安田の舌を受け入れた。 「あっ……！　あぁ……あん、やっ……んん……」 　視界が遮られているために、どこに触れられるかも予測がつかず柔らかく弄られる感覚にいつも以上に敏感に反応する。声をあげれば容赦無くキスで口を塞がれた。 　脚を持ち上げられ再び挿入されると、優しい律動と共に首筋から胸元までキスの嵐……「誰だかわからないだろ」と言われた通り、こんなに優しく抱かれていたのでは、自分の体を弄んでいるのは安田だとわからなくなってくる。 「やっ……安田さん……あっ……あっ……ん、やだ……イく……あっ……あ、安田さん？……あっ……ねえ……あっ……ひぁっ……声……聞かせて……安田さん？ねえ……あ 」 　段々と律動が激しくなり、耳に聞こえる安田の息遣いも荒々しくなる。それでも何も言わず、ただただ剛毅を貫いている安田に剛毅は不安になってしまっていた。 　どちらかといえば行為の最中安田はよく喋る方だった。言葉で羞恥心を煽ったり蔑むようなことを言い泣かせてみたり。それなのに、視界を奪われているせいで何も言わずに自分を抱くこの人物に対して本当に誰だかわからなくなってくる恐怖を感じてしまう。 　思わず剛毅の方からギュッと抱きつく。 　安田の頬に手を伸ばし、顔を確かめようと撫で回す。そして自ら口を寄せキスをした。