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33 再会

 靖幸は動揺を隠せなかった。  確かに剛毅の事は初めから気になっていたのは事実。正直言って自分から剛毅にちょっかいを出したのも自覚はある。  それでも本人から指摘されるのがこんなに恥ずかしい事だとは知らず、逃げるようにして店から出てきてしまった。  自分の感情がよくわからなっかった。  剛毅の事が気になるくせに、あの事があってからは目を合わすことすら怖く感じる。  ジッと自分を見つめる熱い視線……  いやらしく上目遣いをしながら自分の名前を呼び、淫らな行為を平然とこなす。  歩きながら剛毅とのことを思い出し、思わず息が上がってしまった。  店から出てすぐの角を曲がると、すれ違った男と肩がぶつかる。すみませんと軽く詫びるとその男に腕を掴まれ、靖幸は驚いて顔を上げた。 「また会えるとは思わなかった。どうしたの? 慌てちゃって」  目の前にいたのは安田だった。  無視してこの場から去ろうとしたが、安田の手が腕を掴んで離さない。 「慌ててないし……離せ。ぶつかったのは申し訳ない」 「ちょっと待ってよ。ちょうど良かった、話したい事があったんだよね。少し付き合わない?」  掴まれた腕が痛かった。靖幸は安田の事は初めて会った時からあまり好きではなかった。付き合う筋合いはないと断ろうと口を開きかけた途端、剛毅の名前が耳に入り動きが止まる。 「剛君のことでちょっと話したいんだ……いいよね?」  そんな事を言われては断ることもできず、靖幸は好奇心に負け安田の後をついていった。 「この店ならうっかり剛君が来て邪魔されるなんてこともないだろうからね」  薄暗く不思議な雰囲気の飲食店。壁に向かって並んだ席。やたらとカーテンで隠されている席が多いのが気になった。 「こっち……」  呼ばれて靖幸は安田の隣に座る。すぐに店員が注文を聞きに来たので、安田に倣い同じものを頼んだ。  シャッとカーテンを閉められ、密室感が増す。恋人同士ならムードもあって素敵な空間なのかもしれないが、特に好きでもない相手……ましてや、どちらかと言えば嫌いな相手とこの空間はちょっとキツイものがあった。 「話ってなんだ?」 「そんな焦らなくてもいいだろ? とりあえずさ、君の名前を教えてよ。自己紹介まだだよね?」  靖幸は安田の名前は最初からマスターの話で知っていた。安田の表情を見て、もう自分の名前なんて知ってるんじゃないかと訝しむも、取り敢えず靖幸は自分の名前を安田に告げた。 「ふぅん……新堂靖幸君ね。靖幸君って呼んでもいい? 俺は安田公敬(やすだ きみのり)。公敬でも安田でも、好きな方で呼んでくれて構わないよ。靖幸君とはこれから是非仲良くしたいと思ってるから」  グイッと顔を寄せて来る安田に嫌悪感を隠さずに靖幸は体を引く。この距離感の近さも靖幸にとっては苦痛でしかない。 「何で俺が安田さんと仲良くしないといけないんだ?」  見た目が若いとはいえ、少なくとも自分と歳が十は違うと思しき安田と話しが合うとも思えない。何よりこういう馴れ馴れしい輩はあまり好きなタイプではなかった。仲良くなれるとは到底思えず、靖幸ははっきりと隠すことなくそう言った。 「本当に君は……はっきりと物を言う。好きだよそういうの」  安田の手が靖幸の手に触れる。思わずビクッとして手を引こうとしたけど、安田にその手を掴まれてしまった。 「なら俺も靖幸君にはっきり言っておかないと……」  掴んでいる手にじわじわと力が篭る。掴まれた手がジンジンと痛むが安田の力が強くて振りほどけない。憎しみなのか、ふざけているのか、安田の貼り付けたような笑顔からはその感情は読み取れなかった。

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