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34 恋人?

「安田さん……手を離し……」 「もう剛君にちょっかい出すのをやめてもらえないか?」  安田の言っている意味がよくわからなかった。 「はい? 俺が……?」 「悪いんだが、恋人にちょっかいを出されるのは流石にいい気持ちはしないのでね」  恋人?  安田と剛毅は恋人同士だというのか? 安田の言葉が信じられなかった。 「それでも靖幸君は剛君の大切な友達のようだから、俺としては君とも仲良くしたいんだよ」 「………… 」  剛毅は安田の事を嫌っているのではないのか? いつの間に「恋人」という関係になったのか。靖幸は信じられない、というよりも信じたくない、という気持ちの方が大きかった。  でも、先程も靖幸に首の痕を見せつけてきた。傷の手当てをしてくれないのかとも言っていた。手当てなら恋人にして貰えばいい……剛毅に傷や痕を残しているのはこの安田なのだから。 「………… 」  剛毅は安田の前だとどんな顔をするのだろう。あんなに痛めつけられて、苦痛を与えられ、それでも靖幸に見せたようなあんな淫らな顔をするのだろうか……  俺以外の人間に……そう思ったら何故だか苦しく苛々としてくる。 「大切な友達でないし、ちょっかいなんて出してない。気にくわないなら自分でちゃんと躾けりゃいいだろ。俺には関係ない」  剛毅の体についた傷や痕は、剛毅が実はそういったプレイが好みなのかとも思った。でもそうではなくて、この安田の独占欲から与えられたマークのようなものなのかもしれないと察してしまった。  そんな痕を剛毅は自分に手当てさせようとしていたのか? 見せ付けていたのか? 俺をからかって楽しんでいたのか?  恋人がいて、更に自分にもあんな淫らなことをしてきたのかと思うと、靖幸は段々と腹が立ってきた。 「……ねえ、俺が剛君の恋人だとそんなに嫌かい? 澄ました奴だと思ってたけど、君って存外わかりやすいのかな? 俺に剛君とられて悔しい?」  不意に安田にそう言って笑われ、靖幸はどきりとする。  悔しい? そんな事はない。  でも何故か靖幸は言葉が出て来ず言い返せなかった。 「そもそも君は男には興味なんか無いだろ? 靖幸君には無理だよ……」  苛々とする気持ちに追い打ちをかけるかのように鼻で笑われ、靖幸は思わずカチンときてしまった。 「そんな事ない」  剛毅が自慰をしている姿に興奮もしたし、剛毅に触られたことにも嫌悪感はなかった。寧ろ気持ちが良くて興奮していた。 「ふふ……そんな事ないって?……なら俺と試してみようか?」  こいつは何を言っているんだ? と思った次の瞬間、安田の手が靖幸の内腿にスルッと伸びる。股間ギリギリのところを絶妙な力で強く握られ、体が強張り思わず息をのんだ。 「意外に可愛い反応。感じやすいの?」  強い力で肩を抱き寄せられ、安田の舌が靖幸の耳穴を擽った。驚き慌てて体を逸らしたせいで、危うく椅子から転げ落ちるところだった。 「何すんだよ! からかうな!」  椅子から立ち上がり、安田を睨む。心臓が早鐘を打ち顔が一気に熱くなるる。靖幸は動揺を隠せなかった。 「からかってなんかないよ? 俺が剛君を抱くように君も抱いてやるって言ってんの」 「ふざけんな!」  これ以上安田のペースにのまれたくなく、また逃げるようにして靖幸は店から出た。  

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