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38 同じ「男」なのに……

(俺、あなたの事好きですよ……中学の頃憧れてました)  剛毅が言った言葉──  好きだという意味は、人として、友としての「好き」という意味ではないと靖幸にもわかった。  それにしても中学の頃とは……    靖幸は自分のその頃の様子をいくら思い返してみても、何の魅力もないつまらない人間だったように思う。どこをどう見て剛毅が憧れていたのかさっぱりわからなかった。寧ろ剛毅に対して酷く接したような気もする。でもその頃からそういう風に見ていてくれていたのなら素直に嬉しく思った。  靖幸は剛毅が帰ったこの部屋で、一人考える。  今の剛毅はあの頃の姿からは想像もつかないような変貌ぶりだった。今の姿になるまでにどれだけ努力したのだろう。本来持った自分の性格なんて、そんな簡単には変えられない。  自分はどうだ?  人と関わると余計な感情が湧いて出て、面倒だとしか思えない。なら初めから関わらなければいいこと……と、そう思って今の今まで生きてきた。それにわざわざ関わらずとも、元々他人には興味がなかったわけだから、靖幸はそういう生き方の方が楽だった。でもそれは単に逃げているだけなんだと薄々わかってはいた。  剛毅と再会し過去を思い出し、剛毅に興味を持った。こんなに他人のことが気になったのは恐らく初めての事……秘密を共有し、独占欲が湧いた。剛毅は自分の言う通りに肌を晒し自慰まで見せた。支配欲を満たされた矢先に今度は剛毅にいいように舐られた。  男相手に何をやってるんだとショックもあったけど、それ以来今まであまり感じていなかった自身の性欲も湧き出してきたのがわかった。  剛毅に興味を持ってからというもの、靖幸もまた自分自身が変わっていってるのがわかる。  剛毅と安田が恋人同士だと知らされた時、激しい不快感に襲われた。恋人同士でなくとも体を重ねる事はあるんだとマスターから聞かされ、そこは納得していたけど、二人が付き合っているとなると話は違った。  この不快感はきっと嫉妬なのかもしれない。安田の言った通り、面白くないのだ。 「……なんでまた」  靖幸は自分の感情がよくわからなかった。というより、気付いているけど認めたくなかった。  安田に触れられた不快感。そして剛毅に抱きしめられた時の安心感と胸の高揚…… 「俺と同じ、男だぞ……」  ひとりボソッとそう呟き、靖幸は冷蔵庫からビールを出した。

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