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39 部屋に来ないか?
次の日の夜、剛毅は安田に電話をかけた。何度かけても留守電になってしまい諦めかけていたその時、やっと眠たそうな声で安田が出た。
「安田さん?……俺です。剛毅です。あの、すみません……今ひとりですか?」
気怠そうな声に、もしかしたら誰かとの情事を邪魔してしまったかもしれないと不安になった。でも今はひとりだと言う安田にホッとした。
「よかった、お楽しみ中だったらどうしようかと思った……」
思わず出た言葉に、安田は笑う。
「なんで? 一人に決まってるでしょ?」
この時電話で済ませればよかったと今になって後悔してももう遅かった。電話をかけてきてくれて嬉しいと言う安田に剛毅はこれから待ち合わせて、会いたいと伝えた。
いつものマスターの店で落ち合い、そこで少しだけ呑んだ。やはり安田の剛毅に対する接し方が恋人のそれと同じように感じてしまい、どうしたものかとなかなか話を切り出せなかった。
「まだ呑み足りないでしょ? 俺の部屋来ない?」
安田の誘いに剛毅は戸惑う。
いつもは誰と会うにも外でだった。安田とだって店で軽く呑んでからホテルに行くのが常で、突然部屋へ誘うなんてどういう魂胆なのか……と、どうしても警戒してしまう。それでも剛毅が安田に問いたい事、靖幸の事を話すのには周りの目が気にならない場所の方がいいと思い、部屋ではなくいつものようにホテルにしないかと安田に聞いた。
「あぁ、うん……でもいい酒が手に入ったから剛君と一緒に飲みたいんだよね……もしかして俺の部屋来るの怖い?」
剛毅の心情を見透かすようにそう言ってジッと見つめてくる。反射的に「そんな事ない」と言った剛毅に安田はフッと笑った。
「そうだよね、恋人の部屋に呼ばれて怖いなんて……可笑しいよね」
「………… 」
照れ臭そうに笑い剛毅の肩を抱く安田に、何と言ったらいいのか言葉が出なかった。
タクシーを呼び止め二人で乗り込む。先に乗った剛毅の隣に座った安田は、グッと剛毅の腰を引き寄せた。
「もっとこっちに……」
頭を抱かれ、安田の肩に頭を乗せるような形で寄りかかった剛毅に、安田は「着くまで寝てていいよ……」と優しく囁く。眠くなかったけどしょうがなく剛毅は目を瞑った。
「剛君……剛君着いたよ。起きて」
頭をぽんぽんと叩かれ、結局眠ってしまったんだと慌てて安田から離れ顔を上げた。タクシーを降りると、想像とは違う郊外の景色。そしてごくありふれた一軒家の前だった。
タクシーから降ろされ、料金を支払っている安田を気にしつつ、周りを見渡す。タクシーに乗ってどのくらい走ったのだろう。見慣れない景色に気持ちが焦った。
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