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40 一緒にいたかったから

「こっち。おいで……」  安田に手を引かれ、招かれたのはやはり目の前の一軒家だった。ごくありふれた白い壁の洋風の家。数軒並ぶ家も同じような雰囲気の建物で、建売住宅なのかな、持ち家なのかな、賃貸なのかな……なんて、ぼんやりと考える。安田はこの家にひとりで暮らしてるのだろうか。ひとりで住むにはちょっと広く感じた。 「お邪魔します……」  安田に丁寧にスリッパを出され、戸惑いながら剛毅は家にあがった。玄関に入ってすぐドアを開けるとそこはリビングだった。 「適当に座っててよ。ちょっと着替えてくるから……待っててね」  安田は剛毅に近づくと、ふわりと頭を撫で額にキスをする。タクシーの中といい、安田の行動がさっきから甘すぎて剛毅はどうにも落ち着かなかった。  とりあえずソファーに腰掛け、安田が戻るのを待つ。やっぱりひとり……だよな? と、必要最小限しかないこの部屋の家具を見て思った。 「お待たせ……何かつまみでも作るか」  部屋に戻ったラフなスウェットに着替えた安田の姿がまた新鮮で、思わず剛毅は見惚れてしまった。普段の安田は幾らか着崩していてもどこかビシッと洗練された小綺麗な佇まいで大人の魅力に溢れている。でも今目の前にいる安田は若干襟ぐりが伸びてしまったスウェット姿。髪も少し乱れていて、ちょっとだらしのない感じが普段より取っつきやすく感じた。  キッチンに立ち、手際良く調理を始めあっという間に二皿、炒め物とチーズの盛合わせを持ってくる。ソファーの前のテーブルにそれらを置くと、安田も剛毅の隣に腰掛けた。 「ビールでいい?」  ぴったりとくっついて座る安田に、剛毅は少し体を離す。 「……いい酒が手に入ったんじゃ?」 「ん?……あれは嘘。もっと剛君と一緒に居たかったからさ」  一緒に居たいなら、別に家じゃなくてもよかったんじゃないか? とも思う。 「そんな嘘つかなくても。安田さんらしくないね。安田さんならもっと強引じゃない? それに俺なんかにプライベートなとこ見せちゃっていいの?」  この間からの安田の恋人発言……  さっきも剛毅のことを「恋人」だと言った気がする。そう、気のせいであってほしい……そう思っての質問だったのだが、剛毅の不安通り、照れ臭そうに安田は言った。 「剛君にはもっと俺のこと知ってもらいたいって思ったから。それに、よかったらここに一緒に住んでもいいんだよ?」  ジッと見つめられ、徐にそっとキスをされる。驚いていると、そんな剛毅を見て安田は笑った。 「ほんと剛君はすぐに顔にでるね。そんなに困る? 俺が恋人だと……そんなに警戒されると流石の俺でもちょっと傷つく」  剛毅の頬に両手を添え、寂しげに瞳を見つめる。そんならしくない安田の姿を見て、剛毅は申し訳ない気持ちになってしまった。 「……困りますよ。俺、前に言ったでしょ。気になる人、いるんです」

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