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44 本気……じゃない
「剛君はさ、俺にしといた方が幸せだと思うよ……」
ことが終わり、剛毅は微睡みながら安田の声を聞いていた。
そういえば先程もそんなような事を聞いたような気がする。意識がまだぼんやりとしていた。あれは夢の中だったのだろうか……
ベッドの中で安田に腕枕をされながら、剛毅はどうしてこうなったのか考えていた。
安田とは始めっから割り切った関係だと思っていた。出会ったのもそういった場所だし、最初こそもう二度と会いたくないと思ったけれど二度目以降は自分の都合で安田を誘った。安田の興味を靖幸から逸らすためだったけど、何度も抱かれているうちに安田のことはそれ程嫌いではなくなった。
そうだよな……
俺でさえ安田への印象がこんなに変わったんだ。安田が自分に対して好意を持つのもわからないでもない。
そんな風に思った剛毅は、腕から抜け出ると起き上がり、目を瞑って横たわる安田の頬をそっと撫でた。
「……安田さん。なんかごめん。俺、安田さんとはやっぱり付き合えないよ」
安田は目を閉じたままで何の反応もなかった。寝てしまったのだろうかと思いもう一度呼ぼうとしたら、突然グッと安田に抱きつかれた。
「何でそう思う?……あの靖幸とかいう奴だろ? あれはやめといた方がいい。剛君、辛い思いするから……」
抱きつかれていて安田の顔は見ることはできなかった。それでも真剣に言っているのは伝わってくる。いつもの適当な調子じゃないのがわかって、剛毅は益々辛くなった。
「安田さんこそ、何でそう思うの? 俺はまだ相手に気持ちをちゃんと伝えてないし、ダメでもそれは俺の気持ちの問題だから……気になってしまうのはどうしようもないんだ。他にこんなに気になってる人がいるのに、それなのに安田さんとは付き合えない」
「………… 」
そりゃ、自分に好意を持ってくれてる人と付き合った方が楽だし幸せだ。でもそれじゃダメなんだと剛毅は思う。
「安田さんだって……その……俺のこと、本気じゃないだろ?」
好意を持ってくれてるのはわかったけど、きっと本気じゃない。何かの気まぐれなんだ。こんなに歳だって離れている。安田にとって、拾って面倒みていた犬が他所に行っちゃいそうで手放すのが惜しくなったとか、そんな感じなのだろう。
「……そうだな。本気……じゃない。一人で住むにはちょっと広すぎるこの家で二人で生活出来たら幸せなのかな、なんて夢見た程度の本気……」
そう言ってやっぱり寂しそうに笑う安田に、剛毅は言葉が続かなかった。
「あの男はさ、ノンけだろ? 何言われたか知らないが、付き合ったとしてもいずれ他所の女に行っちまうんだよ。そりゃ男女間でも別れはあるさ。でも、男じゃなくて女に走られるのは……しんどいぞ。俺はまだ男に浮気される方がマシだ」
「………… 」
そんなの言われなくてもわかっている。今迄何度そういったことで傷ついたか。それでも自分で好きになった人と一緒になりたい。諦めたり妥協なんかしたくない。生きづらいのもわかってる。
「俺は剛君が傷つくの、見たくないんだよ。これから好きになってくれればいいからさ。俺にしておきなよ」
すっと安田の体が離れ、剛毅を見つめる。心なしかその瞳が潤んでいるようにも見え、ちょっと戸惑う。剛毅が返事に困っていると、安田はそんな剛毅の頬に触れ優しくキスをした。
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