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45 解放

 安田は無理に引き止めることはなく、剛毅はすんなり安田の家から解放された。  遮光カーテンのせいで全く様子がわからなかった外の景色に少し驚く。すっかりと日が暮れていて、朝かと思い込んでいた剛毅は混乱した頭で携帯を取り出した。電源の切られた携帯。改めて電源を入れると、何件かの着信とメールの着信の履歴が並んでいた。日時を見て一日経っていることに少々困惑するも、とりあえず安田と揉めるようなこともなく帰れたことにホッとした。  最寄りの駅までタクシーに乗ろうと、ちょうど通りかかった一台を呼び止め剛毅は乗り込む。 『俺は剛君が傷つくの、見たくないんだよ。これから好きになってくれればいいからさ。俺にしておきなよ』  そう言った安田の表情はなんとも言えず、言った安田も自分に言い聞かせているような……そんな気がしてならなかった。  剛毅は安田に「付き合うことはできない」とはっきり言った。剛毅がそう言うとわかっていたようで、安田は特に反論することもなく軽く頷き力なく微笑んだ。 「フラれたら、今度こそ俺とのこと考えてくれてもいいからね」  追い出されるようにして家を出た剛毅に安田はそう声をかけた。冗談なんだか本気なんだかわからなかったけど、笑顔でそう言う安田に剛毅は頭を下げた。安田の愛情を感じて申し訳ない気持ちと嬉しい気持ちが湧き出て、自然と頭を下げてしまっていた。それでもきっと、安田とは会うことはもうないだろう……  タクシーを降り駅前の通りを一人歩く。歩きながら携帯のメールの着信をぼんやりと眺める剛毅は、なんと返信をすれば良いのか考えた。 「靖幸さん……これは心配してくれてるのか、怒ってるのか? 困ったな……」  靖幸からのメール。「何してるんだ」とひと言だけ。それが連続して三通来ていた。  安田の家に行ってから丸一日経ってしまってるということは、学園を無断欠勤したことになる。何件かの着信は勿論学園からだった。言い訳をどうしようか考えながらいつもの通りを歩いていく。このまま勢いで靖幸の部屋に行ってしまおうかとも考えたけど、やっぱりシャワーを浴びたいと考え直し、とりあえず腹も減ったしコンビニへ立ち寄った。  適当に弁当とお茶を手に取りレジで会計をしていると携帯がブルっと着信を伝えた。メールではなく電話の着信。画面に表示された名前を見て、剛毅はちょっと出るのを躊躇ってしまった。 「……はい」  剛毅は少し緊張しながら電話に出ると、耳にあてた側と逆の耳からも同時に声が聞こえ不思議な感覚に襲われた。 「あれ?……え?」  店員から品物を受け取り恐る恐る振り返ると、案の定すぐそこに怖い顔をした靖幸が立っていた。 「お前は何をしてたんだ? メールの返信くらいできるだろ」  まさかそこに靖幸がいるとは思ってもなかったから、剛毅は言葉に詰まってしまう。まだ言い訳が纏まっておらず、「えっと……その……」などとしどろもどろになってしまい、怒っている靖幸を益々イラつかせることになってしまった。

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