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46 剛毅のアパート
「どうして? ここにいるんですか……?」
辛うじて出て来た言葉に靖幸はあからさまに嫌な顔をする。
「どうしてここにいる? そうじゃなくて! 俺はお前に何をしていたんだと聞いているんだ!」
靖幸の剣幕に驚きここで口論になってもみっともないと、慌てて剛毅は靖幸の手を取りコンビニを出た。
「ごめんなさい。メール、気がつかなくて……てか、さっき確認したばかりで」
なんとなく自宅に向かって歩きながら、とりあえずそのままついてくる靖幸に向かって謝った。何をしていたのか、何と言ったらよいのだろうか考えあぐねていると、靖幸に突然胸倉を掴まれ驚いて足が止まった。
「……あいつか? 安田と一緒だったのか?」
剛毅を睨む靖幸の顔を見て思い出した。
そうだった……キスマーク、沢山つけられたんだっけ。キスマークどころか噛み跡も残ってるはずだ。シャツを着ても隠しきれず、諦めてそのまま出てきたのだったと思い出し靖幸を見ると、やっぱり思った通り靖幸の目線は剛毅の首筋に留まっていた。
「こんなに目立つところに……みっともない」
胸倉を掴んだまま覗き込むようにしている靖幸が思いの外近くで、剛毅はふっと香った石鹸の香りにちょっとだけ欲情した。
時間的に仕事帰りかと思ったけど、風呂にでも入ってからわざわざ出てきたのだろうか。帰宅途中にたまたま見つかったというわけじゃなく、わざわざ自分を探してくれたのかもしれないと思うと嬉しくなった。
「あの、もうすぐそこ、俺の家なんですけど……来ます? って、靖幸さん飯は?」
「あ……ああ、マアサの店で済ませたから大丈夫だ」
マスターの店に寄って食事を済ませ、家に帰ってシャワーを浴び、そして自分を探しにフラフラと出て来たのだろうか。早番だったのかな? 何にしろ、もしそうならやっぱり愛おしいとニヤついてしまう。靖幸に怪訝そうに睨まれ、剛毅は慌てて緩んだ表情を元に戻した。
靖幸の部屋とさほど変わらない同じような間取りのアパート。
「散らかってるかもだけど……どうぞ」
そうは言ったものの、元々物も少なく片付いている。突然誰かが来たところで慌てることは今までなかった。靖幸は何も警戒もなく剛毅の部屋に上がりこみ少しだけ視線を泳がせる。
「俺、腹減ってるんでとりあえずこれ食べちゃっていいですかね。あ、何か飲みます?」
剛毅はビールを出そうと冷蔵庫を開けた。
「ああ、一本いただく」
剛毅から缶ビールを受け取り、プシュっといい音を立てる。「適当に座ってください」と靖幸に声をかけながら、剛毅は急いで弁当を頬張った。
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