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48 友達から
「……んっ……はっ……や……め……ろ!」
強引に舌を捩じ込まれそうになり、慌てて靖幸は首を捻り剛毅から離れる。
「まさかキスも初めてだなんて言わないですよね?」
舌舐めずりしながら剛毅は思わず座り込んでしまった靖幸を見下ろし、クスッと笑った。
バカにしたような目で見られ、靖幸はムッとして剛毅を睨む。
キスくらいは自分にだって経験はある。学生の頃に少しだけ付き合っていた同い年の女。言い寄られ特に何も感じなかったが気が付いたら交際してることになっていた。靖幸にとって初めての恋人。その彼女に靖幸はキスをされたこと思い出していた。
唇が触れ合うだけの軽いキス。キスをされても何も感じず、それ以上のことも勿論したいとも思わずに、彼女にされるままだった靖幸。結局は一向に手を出してこない靖幸に嫌気がさしたのか自然消滅……という形で別れることになった。そしてそれ以降も恋人ができては浮気をされたり自然消滅だったり、恋人と呼べる人物とは長続きしなかった。
「初めてじゃ……ない……し」
すっかり弱気になったように見える靖幸は剛毅から目をそらす。そんな様子を見て剛毅は益々調子に乗った。
「じゃあ、靖幸さんからも……キス、してくださいよ」
座り込む靖幸の前に剛毅も座り、グッと顔を近づけた。「何で俺が……」と言いかけた靖幸の唇に指をあて「ほら早く」と剛毅は軽く目を瞑った。
すぐ唇にふわっとやわらかい感触がし、剛毅は目をそっと開ける。目の前に真っ赤になって自分にキスをする靖幸の顔。その顔がまた堪らなく可愛く見えて、剛毅は靖幸を抱きしめた。
「なんでそんなに素直なんです? 俺にキスなんかしちゃって……」
「だってお前がしろって言うから……」
普通はしろと言われたって、ましてや男同士。少しでも好意が無ければそんなことはできるはずもない。
「ねえ、俺と付き合ってください。俺、あなたの恋人になりたい……ダメですか?」
「だめもなにも! 俺は男だし。なんでお前と……」
此の期に及んでまだそんなことを言い焦っている靖幸に剛毅はもう一度キスをした。
「往生際が悪いです。俺のこと好きなんでしょ? じゃなきゃキスなんてできないし。こないだだって俺とエッチなことしたでしょ?」
真っ赤になって何も言い返せないでいる靖幸に剛毅はもうひと押しと言わんばかりに抱きしめる。そしてわざと耳元で「好きです」と囁いた。
「そんなに言うなら……付き合ってやっても……って言うか、その、友達からなら……付き合ってもいい……かな」
靖幸の言葉に剛毅は思わず吹き出した。友達から……ってティーンかよ! と心の中でツッコミを入れる。でもこの人はきっと大真面目にそう言ってるんだ。男同士という事実も、きっとこの人にとっては受けいれ難いこと……恋愛経験だって殆ど無いのに、自身の感情にすらきっと困惑してるだろうに、それでもこうやって必死に考えて俺のことを受け入れようとしてくれているんだ。そう思ったら剛毅は靖幸のことが益々愛おしくなってしまった。
「友達からでいいですよ。でもキスもしちゃったし、靖幸さん俺見てエッチな気分にもなっちゃうんだから、恋人らしいこともちゃんとしますよ? それでいいですよね?」
「………… 」
剛毅の言葉に靖幸は黙って頷く。
それは不機嫌故なのか照れているのかはわからなかった。
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