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49 事の発端
思ったより早くこうなるとは──
ちょっと意外だったと剛毅は心の中で笑う。
目の前に下着一枚になった靖幸が不機嫌極まりない顔をしてベッドに座っている。
「本当にいいんですか?」
「いいからこうしてるんだろ! 不満なのか?」
不満なわけないだろ……ただこの人は単純なんだか素直なんだか、余りにもチョロすぎて剛毅は少し心配になった。
事の発端は安田だった──
今から一時間ほど前、剛毅と靖幸は久しぶりに二人揃ってマアサの店に顔を出した。靖幸はいつものように夕食を食べるため、剛毅はマアサに靖幸と付き合うことになったと報告するためだった。
「あら! お久しぶり。二人揃って来るなんて珍しいね」
満面の笑みでマスターはカウンターに身を乗り出す。しかしマスターが話し出す前に靖幸は「何か飯をくれ」とぶっきらぼうに話しかけたため、何か言いたげな顔をしながらマスターは店の奥は消えていった。そして食事が出てくるまで二人で静かに呑んでいた。程なくしてマスターが靖幸の食事を持って戻り、そのタイミングで剛毅は少しの時間トイレに立った。
「あ……れ? マスター、靖幸さんは?」
そんなに時間は経ってないはずなのに剛毅が戻ったら靖幸の姿はなく、カウンターの上には無駄に美味しそうな親子丼が食べかけのまま置いてあった。
「あ、剛ちゃん……それがね、安田さんが来たみたいで、私が気付いた時には二人で出て行っちゃったのよ」
「え? 安田さん?」
「ええ、出て行く後ろ姿を見ただけだからあれだけど……安田さんだったわよ」
何しに来たんだ? ていうか何で靖幸さんはついて行ったんだ? 食べかけだろこれ……頭の中で色んなことを考え巡らせながら、とりあえずマスターにはすぐ戻ると伝え剛毅も店を出て靖幸を探した。
少し路地を入ったところで明らかに怒った顔をして一人で佇む靖幸を見つけ、剛毅は慌てて駆け寄った。
「靖幸さん? 大丈夫……」
「帰る!」
方向を変え、ずんずんと歩き始めた靖幸を剛毅は慌てて捕まえる。
「ちょっと! 待って。とりあえず店、戻りましょ? 支払いもまだだし……マスターの親子丼も途中でしょ?」
「………… 」
黙っている靖幸を連れ一旦店に戻ると、マスターも心配そうな顔をして出迎えた。
「もう! 何なのよ。ちゃんと食べてから出て行ってよね」
マスターはそう言いながら他の客のドリンクを作る。靖幸はそれでも何も言わずブスッとしたままだった。
奥の客にドリンクを提供し二人の前に戻ったマスターは、面白そうに靖幸に聞いた。
「で? 何だったの? 何であなた、急に安田さんを連れて出て行ったのよ」
てっきり連れ出されたのは靖幸の方だと思っていた剛毅は、マスターの言葉に驚きを隠せなかった。
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