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51 勢い

「嬉しいな。じゃあ靖幸さん……取り敢えず部屋、入りましょ?」  いつまでも玄関先で話してるのも何だし、気が変わらないうちに早いところそういうムードに持っていきたかった剛毅は、さりげなく靖幸の肩を抱く。  途端に大人しくなった靖幸は、剛毅に促されるがまま部屋へと入った。 「……俺、シャワー浴びてきますから、適当に寛いでてください。冷蔵庫もご自由に」  剛毅はそう言って靖幸を一人残してバスルームへ向かう。  これからすることを考えるとドキドキした。事の急展開に顔のニヤケが治らない……  でも万が一バスルームから出たときに靖幸の姿がなくてもガッカリするのはやめよう。靖幸は一夜限りの相手じゃない。どうせまた学園で会えるのだから……と、これからすることに怖気付いて靖幸が帰ってしまってもしょうがないと自分に言い聞かせた。  ──そう、こんなでも恋人同士になれたんだから。  ゆっくり慣れてもらえばいい。  ゆっくり二人の距離を縮めればいい。  出来るだけ急いで身体を綺麗にし、剛毅は下着姿で部屋に戻る。そして先ほどと同じ位置で立ちっぱなしの靖幸を見てホッとした。 「靖幸さんもシャワー浴びます?……俺は別にそのままでも構わないけど」  ぼんやりと立ちっぱなしだった靖幸は剛毅にそう声をかけられ、我に返ったように顔を上げる。自分に近づく剛毅を避けるようにして「借りる」とひと言だけ告げるとバスルームに歩いていった。  シャワーの音が小さく聞こえる。  靖幸はどんな気持ちでシャワーを浴びているんだろうか。靖幸に口淫した時のことを思い出し、剛毅はソワソワしながら戻るのを待った。  なかなか戻ってこないな……と心配した矢先に靖幸が部屋に戻る。頭も洗ったのか、少し乱暴にタオルでガシガシと拭きながら、部屋に入ってくるなり剛毅を睨みつけた。 「シャンプーしかなかったぞ! トリートメント……いや、リンスでもいいんだけど置いておけよ」 「………… 」  下着一枚の悩ましい姿で何をそんなに不機嫌な顔をしているのかと思えば、怒っている理由がどうでもいい事すぎて剛毅は咄嗟に言葉が出なかった。 「……あ、すみません。俺シャンプーしか使わないんで……」  どすんとベッドに座る靖幸に、剛毅は取り敢えず謝った。 「また来た時に使えるように置いておきますね」  しれっと次の約束のニュアンスを込めてそう言ったけど、靖幸は特に気がつく様子もなかった。緊張しているのか、部屋に入って来た時の勢いはもう見えない。靖幸は剛毅から目をそらし小さく頷いた。  剛毅はゆっくりとベッドに近づく。 「本当にいいんですか?」  安田に煽られて勢いでこうなったものの、引くに引けなくなっているんじゃないか……と思い、恐る恐る確認をしてみる。  今まで関わってきて、靖幸がとても負けず嫌いだということはわかっていたし、安田に「性欲は俺が賄ってやる」なんて言われ憤慨する姿も手に取るようにわかっていた。  とても賢そうなのに、こういうところがちょろくて可愛い。心配になるくらいに。 「いいからこうしてるんだろ! 不満なのか?」  剛毅の言葉にも怒りを露わにして突っかかってくる。  ……俺は不満なんかあるわけがない。  寧ろ安田が煽ってくれたおかげで事が早く運んでありがたいと心の中で思いながら、剛毅は靖幸に覆いかぶさるようにして耳元で囁いた。

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