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55 余裕なんか無い
纏わりつく感触──
それは想像をしていたよりもきつく痛いくらいで、そして恐ろしく気持ちがよかった。靖幸は剛毅の腰に手をやり、押さえつけるようにしてグッとペニスを奥へ進めた。
「あ……あん……やっ……深い……」
剛毅が堪らず声を上げる。その声が思いの外可愛く感じて、靖幸は益々喘がせたい衝動に駆られた。
「気持ちいのか? 奥までちゃんと入ってる?」
ふるふると背中を丸めながら小さく頷く剛毅は靖幸の顔を振り返る余裕もない。グンっと突き入れるごとに「ああっ……!」と声を漏らしビクビクと身体を震わす。そんな剛毅がどんな顔をしているのか見たくなった。
経験がなくとも、やってしまえばどうってことはない。簡単なことだ。自分が気持ちいいように動けばいいこと……靖幸は夢中で腰を打ち付けた。
ぎこちなく感じる靖幸の律動でも気持ちが良いのか、突き入れられる度に剛毅は尻を突き出すようにしてそれを受け入れ、更に悩ましげな声を漏らす。
打ち付ける度に聞こえる、お互いの汗ばんだ肌があたる音、剛毅の中で擦れる度に漏れ聞こえる、ぐちゅ……という卑猥な音。その都度「あっ……あん……」と啼く剛毅の艶かしい嬌声。
剛毅の顔が見たい……そう思った靖幸は掴んでいた腰から手を離し、覆いかぶさるようにしてその顔に手を回した。
「こっちを見ろ。顔を見せろ」
グイっと強引に顔を向かせる。真っ赤な顔をした剛毅が振り返ると同時に唇を奪った。ごく自然に、そうしたかったからキスをしただけ。
剛毅は驚いたような表情を見せるも靖幸の舌に気を取られ力が抜けたようにまた枕に突っ伏した。
「や……だめ……あ……あん、んんっ……」
大の男がこんな格好で女みたいに啼いている。シーツをギュッと掴んで堪える剛毅の姿にゾクゾクした。そして自分が支配しているという事に激しく気持ちが昂ぶった。
「だめじゃないだろ?……ほら……気持ちいいんだろ? もっと啼けよ。もっと感じろよ」
昂る気持ちと、安田にこんな表情を見せていたのかと思うやるせない気持ちが交差する。比べるものじゃないとわかっていても、軽い怒りが湧いてくるのがわかった。
「待って……! あっ! そんな奥まで……ちょっと……あっ……やっ……激し……あっ! ああっ……やっ……やだ! 待って……靖幸さん……それやだ……あん……」
靖幸は剛毅の逃げる腰を強く掴み、自分の方へ強引に引き寄せた。グリグリと掻き回すようにして奥へ奥へと押し付けられ、剛毅は今まで感じたことのない快感に少し怖くなった。
「あ……靖幸さん……ああっ……待って! イっちゃう……やだ……うそっ……あ……あ……」
「……?」
びくびくと小さく痙攣をし、剛毅は吐精した。
「……早かったな」
「んっ……はあ……ちょっと? やっ……待って」
靖幸は力の抜けた剛毅に構うことなくグイッと体勢を入れ替える。剛毅は自身が吐き出し汚したシーツの上に寝かされて少し抵抗しようとするも、また強引に足を掴まれ靖幸に貫かれた。
「や……あっ……激しいって!……待って……そんなにしないで……あん……んっ」
「うるさい」
自分の上で汗を滴らせながら夢中で腰を振る靖幸に、剛毅は思わず見惚れてしまう。普段腹の立つほど冷静で冷めた靖幸が、激しく興奮し獣のように剛毅を見下ろし腰を振ってると思うと気分がよかった。
「何だよ? 何がおかしい? 余裕だな……もっと啼けよ」
余裕なわけない。
靖幸に睨まれた剛毅は我慢せずにまた声を漏らす。顔を近づけてきたからキスをされるのかと期待して軽く口を開くと、剛毅の意に反して靖幸は首筋に歯を立てた。
「……? 痛っ!」
噛まれた痛さに驚き剛毅は靖幸にしがみつく。奥深く貫かれながら、激しい腰のグラインドに合わせ何度も首筋や肩に歯を立てられ、痛みに涙が零れおちた。そんな剛毅に気付かない靖幸は吐精感が込み上げてくるのを堪えることなく、更に激しく剛毅の奥へと突き挿れた。
「イク……イクぞ……んんっ……」
剛毅は痛みと快感におかしくなりながら、ただひたすら力無く喘ぐ。だらしなく開いた口の端から涎を垂らし涙する剛毅の姿に靖幸はぞくりとした。
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