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それから……

 靖幸は困惑していた──  色々あり同性である剛毅と付き合うことになったものの、異性とすらまともに向き合って交際をした事がない靖幸にとって、剛毅とどう接したらいいのかよくわからなかった。  大抵は剛毅のペースで誘われれば一緒に飲みに行ったり食事をしたり、そしてそういう雰囲気に持ち込まれれば、仕方なしに体を交えた。  仕方なしに?  いや、靖幸は剛毅に触れられてからというもの、今まで押さえ込まれていた感情、性に対する己の淫欲に気付かされていた。仕事中に剛毅の姿を見つけてはずっと目で追ってしまう。不意に目が合おうものなら、あの夜の欲に乱れたお互いの姿を思い出し胸が苦しくなってしまう。  素直に自分から剛毅を誘い、抱きしめればいいだけのことなのに、それをしないのは、靖幸にはっきりとした自覚が湧いていなかったから……いまだに「認めたくない」といった感情も残っていたから。 「お疲れ様です。靖幸さん、終わりました?」 「終わってない……だから先に帰れ」  今日も剛毅は警備室に顔を出す。タイミングが合えば一緒に帰ろう、ということらしいのだけど、今の靖幸にとっては一人になりたいと思う方が強かった。  剛毅に心を乱されているのが悔しい……  いつもいつも剛毅のペースなのが面白くない。  そんな子どもじみた考えが頭を過り、いつも以上に素っ気ない態度をとってしまった。 「そうですか……じゃあ俺、いつもの店で飲んでるので気が向いたら顔だしてください」  少しだけ残念そうに剛毅はそう言うと、一人で帰ってしまった。 「……はぁ 」 「お前、今帰り支度してなかったか? あの先生と帰りゃよかったのに」  一部始終を見ていた交代勤務の同僚にボソッと言われ、思わず睨む。 「いいんだよ、うるさいな。俺は今から帰るんだ」 「……はいはい。お疲れ様」  少し経ってから帰るつもりが指摘され、何となく居辛くなってしまったから靖幸も早々にひとり帰った。  このまま家に帰ろうか……でも剛毅はきっとマアサの店にいるのだろう。今から向かえばまだ一緒にいられる時間もたっぷりある。そうだ、腹も減ったしマアサの飯を食わせてもらおう。  別に剛毅と会いたいから、ってわけじゃない。  そう靖幸は一人で言い訳を考えながら、まっすぐにマアサの店に向かっていた。

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