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察する
「今から向かうから何か飯を食わせてくれ」
いつもは前もって連絡など入れることもない靖幸が、こう言ってわざわざ店に電話をかけてくるのを聞いて、マスターのマアサは少し首を傾げた。とりあえず「わかったわよ。適当に作っておくから待ってるわね」と返事をし電話を切った。
「変な靖幸ちゃん……」
ぽつりと溢したマスターの言葉に、目の前で飲んでいた剛毅はすぐに反応し、顔をあげた。
「ねえ、靖幸さんから電話? 何? 今から来るって?」
「ええ、飯作っとけって。いつもそんな事言わないで突然来るのに、変なの……」
「そっか。なら俺ももうちょっといようかな」
嬉しそうな剛毅の顔を見て、ああ、そうか……とマスターは小さく笑った。靖幸は剛毅がここにいるのを知っていて、敢えて連絡を入れたのだ。俺が行くからお前もまだそこにいろ、と遠回しに伝えるために。
「最近さ、靖幸さん俺に対して冷たいんだよね。気に触る事しちゃったのかな。心当たりないんだけどな」
少し元気なくそう溢す剛毅にマアサは笑う。そもそも靖幸はちょっと風変わりで、どちらかと言えば冷たそうな人間だ。今更なことを言う剛毅に酒のおかわりを出し、適当な言葉で励ました。
「付き合い始めたばかりでしょ? 今が一番ラブラブなんじゃないの? そんなの気のせいよ」
最近この二人に交際の報告をされ「おめでとう」という祝福の気持ちと共に湧いた好奇心。靖幸はマアサから見たらかなり面倒臭い類の男だった。そして剛毅はどちらかと言えばわかりやすく単純な性格。それでいて少し頑固なところがあった。上手くいくのか行末が気にならないといったら嘘になる。付き合い始めで初っ端からこんな様子で、剛毅がちょっと気の毒になった。
「わざわざうちに連絡入れてきたのって、剛ちゃんいるの分かっててわざとなのよ。靖幸ちゃんてば全然素直じゃないでしょ? 一緒に飲みたいからお前はまだ帰るなよ、って言ってるのよ。そこのところは分かってあげなさいな」
マスターに言われ、剛毅も少し考える。確かに素直じゃない……というか、ちょっと変わっているというか、すぐムキになるところなんかは可愛いなって思う。「分かってあげなさい」というマスターの言葉に納得がいった。
「そうだよな。靖幸さんってノンけだもん……成り行きでも付き合うって事になったのは奇跡みたいなもんだよね」
「え? 成り行きなの? 何それ」
「あ……まあ色々あってね。お友達から、って感じなんだけどやることやっちゃってるし……」
「やだそうなの? やるわね剛ちゃん」
そんな話をしていたら、早速靖幸が顔を出した。
「あらあら、待って。早かったわね。ごめん、今から用意するから待っててね。ほら、剛ちゃんにははい、これおかわり」
バタバタと裏に消えていくマスターの後ろ姿に「何だよ、早くしろよ」と冷たく言いながら、靖幸は当たり前に剛毅の隣に座る。「お疲れ様です」と笑顔を向ける剛毅をチラッと見て、小さく頷き視線を逸らした。
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